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はじめに
 ヤナギ科のヤナギ属は細長い単葉をもち、同一種と同定された葉でも広範囲の変化があり、その着く位置による陽葉、陰葉、半陰葉でも葉形は異なり、季節により生ずる春葉、晩春葉、初夏の葉、夏葉とでそれぞれ異形葉がみられる。雌雄異株であるうえに花と成葉とが同時に見られず、また種間雑種が生じやすいことも良く知られ、ヤナギ属の同定はしばしば困難となりやすい。
 筆者はヤナギ科植物は初心者であるが、たたき台がなければ入門もかなわず、おそらく検索表どおりに分類がいかない難しい種類であることを承知の上で、ヤナギ属を中心に自分自身のための入門用検索表を作成した。ほぼ文献情報からの内容で実地検証を行っておらず、今回掲載したものは仮検索表と考えている。
(08/8/1)

 ヤナギ属のうち、東北大学植物園・つくば実験植物園・多摩森林科学園での、検討が可能な雑種を除く種はほぼ検証が完了した。その結果を受けて「葉での検索表」をここに本掲載とする。(従来のものは破棄願いたい。引き続き修正は適時行う。花での検索表は仮掲載とする)
尚、本文中に☆印で記した各内容は筆者が実際に植物園植樹種を主対象として検証した形質である(そうでない場合は明記した)。ヤナギ属の葉による本検索表が一般研究者の多少のお役に立てれば幸いである。
(08/9/30)

《ヤナギ属Salixの種検索》(08/9/30更新)(2008年作成で、2017年現在不満足な内容です。いずれ図解検索表として再掲載しますが時期は未定です。よって仮検索表としておきます。2017.) 
  ◇葉での検索表(仮掲載)  ◇雄花検索表(仮掲載)  ◇雌花検索表(仮掲載)

(葉での検索表には印刷用pdfファイルを用意した。多少のタイムラグがでる場合があるのと、図を入れる為の空白部が多くあるが、図は当分先になるので文献図を切張りするなり工夫をお願いしたい)(花時期の検索表は未完成であり仮検索表と位置付ける) 参考文献

《ヤナギ科Salicaceaeの属検索》  

《属検索》
◆芽鱗は1枚  ◇花は無柄◇花穂は下垂◇花に腺体がある、中媒花◇托葉あり
                                    《ヤナギ亜科》    『オオバヤナギ属』【オオバヤナギ】
◆芽鱗は1枚  ◇花は無柄◇花穂は下垂◇花に腺体が無く、風媒花◇托葉無し
                      《ヤナギ亜科》  『ケショウヤナギ属』【ケショウヤナギ】
◆芽鱗は1-3枚◇花は無柄◇花穂は直立-斜上-やや傾下◇花に腺体がある、中媒花◇托葉あり
                      《ヤナギ亜科》  『ヤナギ属
(今回掲載)
◆芽鱗は複数 ◇花は有柄◇花穂は下垂◇花に腺体がある、風媒花◇托葉あり
                                      《ヤマナラシ亜科》『ヤマナラシ属』【ヤマナラシ、エゾヤマナラシ、ドロヤナギ】
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ヤマナラシ属Populusの種検索》 (ここはまだまとめていない。他に移入種が数種あり)

◆葉柄は左右から圧扁され扁平◆若枝、冬芽は有毛◇葉は低い波状鋸歯;はじめ有毛、後ほぼ無毛;葉表基部に腺あり【ヤマナラシ】
              ◆若枝、冬芽は無毛◇葉は粗く大きな波状鋸歯;無毛;葉身基部に腺欠くもの多い【エゾヤマナラシ】
◆葉柄は圧扁せず、上面に溝あり、上端に腺あり◇葉は心脚;両面脈上細毛あるか、無毛【ドロヤナギ】
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《ヤナギ科検索表の使い方》

◇「ヤナギ属の葉の縁の巻き方と、鋸歯についての考察」をトピックに掲載した。本検索の鋸歯表現を図解記載してある。
(新葉の側縁の裏巻きは、しっかりと「の字」状に裏巻きする種と、新葉が展開を完了するまでの間に、側縁が裏側に軽く弧状に反る種類がある。更に成葉でオノエヤナギなどでは鋸歯部縁が裏にしっかり折れ巻かれているものもあり、葉の側縁の巻き方には複数あることを認識したうえで文献記述を読む必要がある;08/8/17;山口)

◇検索表中での種名前の数字は、一般的な資料として現在最も利用されると考えられる図鑑Hでの記載順である。調べる場合のキーとして記す。

◇種名の前方に、高木か低木か、葉の縦横比、葉裏の情報、などを略記した。葉の縦横比は係数とした表記を試みた。例;(広233葉)→葉の形状を細葉か広葉かの2タイプにまず分け、葉の長さが巾の2倍程度の場合に係数「2」とし、それを複数掲載した。「3」が2個あるのは巾の3倍長傾向が強いの意味。係数5が最大。

◇本検索表は雑種を含めていない。まず基本種を理解した上での雑種研究であることは疑いがない。

◇同定が難解な種類にての経験では、キーが曖昧で文献情報のみでは解決しない場合も多く、また文献記述内容が必ずしも正しくなかった事例も少なくない。素人的な別の視点から有効な判別キーが生まれることもあった。
本属検索でも、おそらく上記と同様な傾向がある可能性があり、文献情報を全面的に信奉するのではなく、自らの視点や考え方を大切にして、新たな知識、新たな判別法などを求めていけると、植物趣味が一層充実するものと思われる。

《シバヤナギ節におけるシバヤナギ亜節とキツネヤナギ亜節について》

(シバヤナギ節は隆起条のあるなしで2亜節に分ける考えが主流だが、隆起条のないシバヤナギ亜節に相当するシライヤナギ・コマイワヤナギに対してYは隆起条があるとしている。この正誤がはっきりするまでここでは2亜節を採用しないでおく;08/7/31;山口)
、と記したが、雄花検索表・雌花検索表を記述してみるとシバヤナギ節の各種のうち、キツネヤナギ・サイコクキツネヤナギ・オオキツネヤナギなどでは、裸材の隆起条の有無以前に、花の苞の上半部が褐色-暗褐色になり、花は葉前性である。一方シバヤナギ・シライヤナギ・コマイワヤナギ・チチブヤナギなどでは、花の苞は淡色-黄色で黒味がなく、花は葉と同時性ではっきり異なる性質を持つ。本検索表では裸材の隆起条の有無に関わらず、前者をキツネヤナギ亜節、後者をシバヤナギ亜節として扱うことにする。(08/8/31;山口)
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《表現定義》
<検索表では図鑑記述と区別する為、筆者が検証を済ませて確認した記述には先頭に☆印をつける>

◇出葉(伸び出した芽が完全にはほどけていない状態); ◇新葉(ほどけているが葉色がまだ確定していない状態); ◇若葉(葉色が確定し、縁も成葉と同様な状態); ◇新枝(軟質で先端に新葉がつく枝); ◇若枝(硬度があり若葉がつく枝)

◇側縁が反る(断面が弧状) ◇側縁が巻く(断面が「の」字状) ◇側縁が折反る(断面が「U」字状) (トピックに図がある)

◇波状鋸歯  (縁は「S」字状で腺は前の波端より上に離れ波頭状)       (トピックに図がある)
◇低波鋸歯  
(縁はやや低い波形で腺は前の波端からやや離れ波頭状)
◇低鋸歯   
(縁は「S」字にならず腺は前の縁端よりやや上に段状に離れる)
◇鋭鋸歯   
(縁は「S」字状にならず腺は前の縁端より上に段状に離れ鋸の刃状)
◇弧状鋸歯  
(縁は弧状で腺は前の弧端にやや接続している;オノエヤナギ)
◇ひら鋸歯  
(腺は前の縁端に接し腺部分が段状になる)
◇ひら凸鋸歯 
(縁はやや平らで腺のみ凸出し段にならない)
◇全縁    
(腺は無いか縁に埋もれ目立たない)

◇肋脈(あばらみゃく);(側脈が葉縁付近で隣接する側脈と弧状に連続的につながる脈を称する。アオハダなどの葉裏にみられる特徴的な形状で、肋骨を描いた略図に使われる形から「肋脈」と称したが、正式な用語ではない)

◇「→」       ;(脱落性の毛などの表記する為に、進行予測を現す)
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《基本覚え》
◇現在のヤナギ属の分類体系はアンデルソン(N.J.Andersson)やゼーメン(O.Von.Seemen)の学説を取り入れて発展したものである。アンデルソンが雄しべの数を重視したのと対照的に、ゼーメンは腺体の数、雄しべの数、花柱の長さ、子房の毛の有無、腺体の長さ・形状、子房の柄の有無などで、特に腺体の数・形状を分類の上位に置いた。しかし雄しべの数は比較的安定していて腺体のような規則性・安定性にやや欠ける形質より優れているのは言うまでもない(Fk51)。

◇日本のヤナギ科研究者に目を移せば、・・・・・・ヤナギ科の専門学者としては小泉源一(ペキンヤナギ、エゾマメヤナギ、コマイワヤナギ、ミヤマヤチヤナギ、レンゲイワヤナギなど多数の種を記載発表)、中井猛之進(ケショウヤナギ属を新たに建てた)、木村有香(アカメヤナギ、コゴメヤナギ、バッコヤナギ、タライカヤナギ、キヌヤナギ、エゾノキヌヤナギ、コリヤナギ、ユビソヤナギなど多数の種を発表。オオバヤナギ属を新しく建てた)の業績が際立っている(M73)

◇日本のヤナギ類の分類研究は木村有香が体系的にまとめられた(C)。

◇ヤナギ属では殆ど托葉を持つが出現は気紛れで、一般的には春伸びる枝で見られる(M68)。
(托葉は陰葉で発達が良い気がする;山口)

◇ヤナギ属では雑種が多いが、野外では普通には雑種ではない個体が多いので、それぞれ種として認めることが出来る(G)。

◇隆起条 Striemen は優性遺伝するらしい(M55)。



謝辞
 東北大学植物園には多くの種がそろっており、大変参考にさせていただいた。つくば実験植物園と多摩森林科学園でも数種の検討ができた。植物園スタッフや関係者に対し心より感謝申し上げます。(08/9/30;山口純一)

 大槻眞一氏に「ヤナギ類 その見分け方と使い方」、中村僉雄氏に資料「ヤナギ科の特徴」のご提供をいただいた。本項を掲載するに当たり大変参考になり記して御礼申し上げます。(08/8/1;山口純一)


 成葉での実地検証の結果を記し後日のために残すことにした。以下検証メモ。(08/8/17)


《主な参考文献》 頁top

尼川大録・長田武正 1988. 検索入門 樹木(1)207pp,(2)206pp.保育社.(略記 A)
長谷川義人 1983a. 毛野国のヤナギ.MAKINO 03:8.牧野植物同好会. (略記 M03)
長谷川義人 1983b. 六角堂のヤナギ.MAKINO 04:10.牧野植物同好会. (略記 M04)
長谷川義人 1987. カワヤナギとその学名.MAKINO 18:5-6.牧野植物同好会. (略記 M18)
長谷川義人 1990. 植物雑記27 コマイワヤナギ探訪.MAKINO 28:5-6.牧野植物同好会. (略記 M28)
長谷川義人 1995. 植物雑記41 シダレヤナギアラカルト.MAKINO 41:8-9.牧野植物同好会. (略記 M41)
長谷川義人 1997. 植物雑記49 ヤナギ科の系統と分類.MAKINO 48:5-8.牧野植物同好会. (略記 M48)
長谷川義人 1999. 植物雑記56 木村有香先生講義録 1.MAKINO 55:6-8.牧野植物同好会.
(略記 M55)
長谷川義人 2001. ゼーメンのヤナギ学説(1903)の紹介.FLORA KANAGAWA 51:601-603.神奈川県植物誌調査会. (略記 Fk51)
長谷川義人 2001. ヤナギ科.神奈川県植物誌2001,pp.528-545.神奈川県立生命の星・地球博物館. (略記 K)
長谷川義人 2003. ヤナギ科.千葉県の自然誌 別編4 千葉県植物誌,pp.86-99,102-105.千葉県. (略記 T)
長谷川義人 2005. 植物雑記77 ヤナギ科属種(特に日本原産種)の命名と記載の歴史 2.MAKINO 73:5-6.牧野植物同好会. (略記 M73)
木村有香 1989. ヤナギ科.日本の野生植物 木本T,pp.31-51.平凡社. (略記 H)
北村四郎 1979. ヤナギ科.改訂15刷 原色日本植物図鑑 木本編U,pp.303-340.保育社. (略記 G)
岡本省吾 北村四郎(補校) 1958. 原色日本樹木図鑑,306pp,pls68.保育社. (略記 J)
大井次三郎著 北川政夫改訂 1983. 新日本植物誌 顕花篇,1716pp.至文堂. (略記 O)
斎藤新一郎 2001. ヤナギ類 その見分け方と使い方,144pp.北海道治山協会. (略記 C)
杉本順一 1978. 改訂増補 新日本樹木総検索誌,577pp.井上書店. (略記 S)
田中啓幾 2008. 落葉樹の葉,447pp.山と渓谷社. (略記 R)

吉山 寛・石川美枝子 1992. 落葉図鑑,372pp.文一総合出版. (略記 B)
吉山 寛 2000. ヤナギ科 樹に咲く花 離弁花1,pp.38-121.山と渓谷社. (略記 Y)

《参考サイト》
下山祐樹 2008. ユビソヤナギとオノエヤナギの葉による区別.潟Gコリス. http://www.ecoris.co.jp/sensyokuren01.html(08/9/30アクセス)
(略記 HP下山)

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