〔柱頭3本のカズノコグサ(進化の過程がみられる)〕(09/5/24)  トピック目次   HPtop   topic18 

 イネ科カズノコグサ属のカズノコグサ Beckmannia syzigachne (Steud.) Femald の柱頭は通常2本であるが、柱頭3本を持つ小花を混在させた個体を確認したので報告する。

 カズノコグサの柱頭に関しては、2008年5月11日に採集した埼玉県産品で2本の柱頭の間に1本の突起をもつものを確認し、突起が退化した3本目の花柱の基部の可能性を示唆した。その後福岡県の中村功氏から更に長い突起を持つ個体の報告があり、柱頭3本のカズノコグサの存在を期待させた(山口2008a)

 日本で見られるイネ科では、ほとんどの種類で花柱・柱頭ともに2本である。ツキイゲ、アイアシ、ジュズダマなど少数の種類で花柱1本のものがあるが、その場合にも柱頭は2本であり(山口2008b)、筆者は柱頭3本の日本産イネ科植物をまだ知らない。しかし、長田(1981)はカズノコグサの花柱を3本と記し、甲府市産品を柱頭3本として描いている(長田1981・1993)。牧野(1961)ではカズノコグサには2花柱があると記されているが、他にカズノコグサの花柱や柱頭について記載のある文献を筆者はみつけられなかった。

 その後カズノコグサに野外で出会うたびに柱頭に注目して小花を調べていたところ、2009年5月17日、東京都あきる野市小川の多摩川右岸河川敷に生育するカズノコグサで、柱頭を3本(図1)もつ小花を混在させている個体を確認した。

(図1、東京都あきる野市小川09/5/19採)
柱頭3のカズノコグサBeckmannia syzigachne

(図2、同上09/5/17採)
柱頭3のカズノコグサBeckmannia syzigachne
 分解時期悪く柱頭の羽状部分が不整である。基部に雄しべ2個が付着している(1個は脱落)。

(図3、東京都調布市上布田09/4/4採)
柱頭2のカズノコグサBeckmannia syzigachne
 花柱の間から突起が伸びている。突起はかなり頻繁にみられ、3本目の花柱の痕跡と考えられる。
 左右にあるのは鱗被。基部から伸びる3本は雄しべの花糸(1本の先に葯が半分見えている)。この頁top


◇柱頭の調査の方法
 2009年9月17日、あきる野市の多摩川河川敷にできた池状湿地の岸辺付近に20〜30個体のカズノコグサが成育していた。雄しべの葯を抽出している2個体から、それぞれ1花序を採集した。翌日10小花ほどの子房を取出し柱頭の数を調べたところ、柱頭3本の小花が2個みつかった。しかし時間が一日経過していたため少し乾いており、柱頭の羽状部分が不整な形状で(図2)、良い画像が得られないことから再度新鮮なものを採集することにした。
 翌19日、現地で8個体からそれぞれ1花序を採集し、帰宅後すぐ調査にかかった。各花序で10小花づつ調べるがなかなか柱頭3本のものがみつけられず、更に10小花づつ調べて行き、ようやく1個体の花序で柱頭3本の子房が確認できた(図1)。続いて柱頭3本の認められた個体の花序で更に60小花ほど調べたが、柱頭3本をもつ小花は2個であった。
以上をまとめると、
・今回の調査個体は10個体。それぞれ1花序を採集し計10花序。
・柱頭3本の小花がみられたのは2個体。柱頭3本の子房を持つ小花はそれぞれ2小花で計4個(調査小花数は80個と約10個の合計約90小花)。
・柱頭2本の通常個体は8個体。それぞれの花序から10〜20小花を調査。調査小花の総数は合計するとおよそ220小花。

◇考察
 昨年は、(1)柱頭が3本であったカズノコグサが進化により柱頭2本となった。(2)柱頭3本と2本とが日本の各地で住み分けている。(3)柱頭2本のものが帰化して全国的に多くなってきた。などの可能性を考えた(山口2008a)。

 今回の調査では、柱頭3本をもつ小花は花序全体からみてもごく稀にしか存在せず、(2)および(3)の可能性は読みとれない。
 単子葉の風媒花として最も進化しているといわれるイネ科植物は簡略化に向かっており、多少花型から1小花型へ、花柱3本から花柱1本へと進化しているように考えられ(山口2007)、カズノコグサでは2本の花柱の間に1本の突起をもつ子房(図3)はかなり頻繁にみられるが(山口2008a)、今回柱頭3本の小花が確認されたことから、この突起は3本目の花柱の基部が痕跡的に残っているものと考えられる。
 カズノコグサは柱頭3本から柱頭2本へ進化してきており、現在その最終過程にあるものと推測する。(09/5/24;山口純一) 
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《参考文献》
牧野富太郎著 前川文夫・原寛・津山尚編 1961. 改訂 牧野新日本植物図鑑,1060pp.北隆館.
長田武正 1981.原色野草観察検索図鑑,pp518.保育社.
―――― 1993.増補 日本イネ科植物図譜,776pp.平凡社.
《参考サイト》
山口純一 2007.日本の野生植物検索表,進化によるイネ科の小穂の変化とタイプ型.
       http://homepage2.nifty.com/syokubutu-kensaku/inekasinka1.html(09/5/24)
―――― 2008a.日本の野生植物検索表,カズノコグサ・柱頭が3本から2本へ進化の途中か?. (山口2008a)
        http://homepage2.nifty.com/syokubutu-kensaku/topic12.html(09/5/24)
―――― 2008b.日本の野生植物検索表,イグサ科 カヤツリグサ科 イネ科、類似3科の図解区別一覧.
        http://homepage2.nifty.com/syokubutu-kensaku/zukensaku004.html(09/5/24)

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