トピック目次   HPtop   topic15 キクイモになれなかった、イヌキクイモ07/12 


頁概要 ◇キクイモの地下部検証 (イヌキクイモの学名) 図 キクイモ地下部  図 イヌキクイモ地下部  図 根茎の節と芽  図 塊茎のこぶのメカニズム


キクイモの地下部検証<08/12/17>

 2007年のイヌキクイモ(
Helianthus sp.)の栽培による地下部検証に続き、2008年はキクイモ(Helianthus tuberosus L.)の栽培を試み、その地下部を検証した。

栽培方法
 キクイモとイヌキクイモの塊茎や横走する根茎の性質を解明するには、
1、キクイモとイヌキクイモの塊茎を、同じ土壌環境で生育し、塊茎や横走する根茎に違いがでるかを調べる。
2、キクイモ的な塊茎を荒地のような土壌環境で生育した場合に、塊茎や横走する根茎がどのようになるかを調べる。
3、イヌキクイモ的な塊茎を畑地のような軟らかな土壌で生育した場合に、塊茎や横走する根茎がどのようになるかを調べる。
などの方法が考えられる(HP07/12)。

 昨年は3の方法を検証したが、今回は新潟産・長野産のキクイモの塊茎を使用して、1と2の方法を試みた。育成土壌は、荒川河川敷の荒土、キクイモは連作が不適であるとの情報を受けイヌキクイモ栽培に使用した昨年の土、腐葉土を混ぜ込んだ畑地を意識し軟らかく仕上げた土、の三タイプの土壌を準備した。地下部確保の必要からプランターで栽培し、途中での肥料は一切やらず、夏の暑い時期の水分補給に注意して育成した。

結果
 今回は、害虫か病気なのか原因不明だが、生育途中で葉が枯れるなどがあったが殺虫剤や薬品は使用せず水やりのみで対応した。そのため葉のつく数も少なく大変生育が悪く、丈も低いものが多かった。11個の塊茎に対し花を咲かせたのは3個。2個は全く芽が出ず、6個が茎を伸ばし葉のみをつけた。
 2008年11月29日に植物体を掘り起こし地下部を確保。以下のようなことが認められた。

横走根茎:
イヌキクイモ(図7〜9)は大変長い根茎を多数横走させていた。最も長いものでは80cmに及ぶものもみられた。
キクイモ(図1〜6)は比較的短い根茎を伸ばしていた。図5では根茎を伸ばさず茎に直接つく塊茎もみられた。

◇根茎の太さは、明らかにイヌキクイモよりキクイモの方が太く感じられた。イヌキクイモでは根茎の大部分が径1mm以下、少数の太い部分でも径2mm以下であった。キクイモでは大部分の根茎は径2mm以上あり、稀に径1.5mmほどの部分も見られた。この根茎の太さは時期によっても変化が予想され、数値で両者の違いを示すことは難しい。

◇横走する根茎は節を持ち、節には膜状の短い鞘(スギナの鞘的)があり、鞘をめくると対生する芽が存在する(図 根茎の節と芽)。この鞘は退化した対生する葉が合着したものと考えられ、キクイモ・イヌキクイモ共に同じ形態であった。

塊茎:
◇これまでキクイモとイヌキクイモを分ける日本の文献では、塊茎の大きさや形状で両者を区別しているが、こぶの多い大きな塊茎はキクイモの図3と図5にみられ、イヌキクイモにはみられなかった(昨年のイヌキクイモでも、こぶの多い塊茎はみられなかった)。
◇イヌキクイモは細く長い根茎の先に節のある紡錘形の塊茎を作るとされているが、キクイモも同様で今回の総てのキクイモで紡錘形の塊茎が出現した。

◇塊茎は根茎と相同のもので、根茎の節間が短縮し、節部分が肥大膨出してそれが連続した形状の組み合わせとなる。
◇こぶの多い塊茎を精査すると、塊茎の芽は十字対生で、隆起した芽の左右には次の芽が対生し、それらが様々に組み合わさって独特な形状を作る。芽が十字対生することはキクイモ・イヌキクイモ共に同じで、基本的性質であろう。(図 塊茎のこぶのメカニズム)

開花株、未開花株:
◇11個のうち開花したのは3個(イヌキクイモ2個、キクイモ1個)あり、これは葉を充分つけない株が多かったため(害虫か病気が原因と推測される)と考えられる。
◇開花しなかった株でも地下の塊茎は発達させていた(図1・2・4・5・6・8)。
◇開花株は葉も多くつけたために、未開花株と比べて地下部の発達が良く、比較的大きいな塊茎をつけ数も多かった(図3・7・9)。
◇芽の出ない株は2個(キクイモ1個、イヌキクイモ1個)あり、地下部も消滅していた。

土壌:
◇キクイモで使用した荒川河川敷の土は、やや粘質で水はけの悪い土であり植物体の生育は良くなかった(図1・2)。そのため塊茎は最も少なかったが塊茎の大きさは他の土壌生育品と変わらなかった。

◇Web上でキクイモは連作が適さないという栽培情報があり、昨年イヌキクイモ栽培に使用した土でのキクイモ栽培を試み(図3・4)、開花した図3の株ではこぶの多い立派な塊茎をつけ、特に連作の影響は認められなかった。

◇腐葉土を混ぜ込んだ軟らかい土壌では、イヌキクイモ4個とキクイモ3個の栽培を試みた。キクイモは荒川の土で栽培したものより生育が良かったが、昨年使用した土のキクイモとは違いがない。茎の伸びたキクイモ2個(図5・6)のうち、長野産(図6)は塊茎をつける根茎がやや長い傾向がみられた。イヌキクイモは昨年試みた腐葉土を混入しない方法での育成と比べ、違いはなかった。

考察
 栽培育成は葉が枯れたり開花しない株が多かったり、やや失敗であったが研究結果は得るものが多かった。順調に生育していればキクイモの地下部の発達は今回より良いと考えられる。

横走根茎:
◇今回の実験で、キクイモ(図1〜6)とイヌキクイモ(図7〜9)の地下部を比べると、横走する根茎の形状(長さ・太さ)が異なる。イヌキクイモは根茎が大変長く細く、植物体を引き抜いたときにほぼ塊茎が脱落するのはこのためと考える。昨年の検証でもイヌキクイモの根茎は今回と同様で細く長く、イヌキクイモの根茎の性質は安定している。
 キクイモでは根茎が太く短い傾向があり、植物体を引き抜いた場合に塊茎が脱落せずにつながってくるのは根茎の太さや丈夫さがあるからである。キクイモは根茎を伸ばさずに直接塊茎をつけることもあり、両者の横走する根茎には違いがあるように思える。

◇キクイモの栽培例で、塊茎はやや長い根茎の先に生じて必ずしも茎の直下付近に集まらなかったとの報告があるが、今回の長野産(図6)のキクイモは比較的長い根茎をつけ、この報告に近いものに思える。キクイモは短い根茎の先に塊茎をつける場合もあるが、やや長い根茎の先に塊茎をつける場合もあり、ともにキクイモのもつ性質といえる。

塊茎:
◇植物体がこぶの多い大きな塊茎をつけている場合は、キクイモと判断して良いと考える。これまで指摘されているキクイモの特徴であり、多くの報告がされていて視覚的にも解りやすい形質である。
◇今回はこぶの多い大きな塊茎の出現は少なかったが、生育不順の影響が大きいと考えられ、順調に生育できれば特徴的な塊茎をもっと多くつけるものと推測する。

◇今回使用した新潟産のキクイモ(図1・3・4・5)は、40年以上も前から大橋氏の庭で自然生育を繰り返してきたもので、こぶの多い大きな塊茎を作る性質を現在まで維持しており、日本で広く見られるイヌキクイモとは塊茎や地下部の形態が異なっていると思う。

◇これまでイヌキクイモの特徴とされてきたチョロギ状・紡錘形の塊茎は、今回総てのキクイモでみられたことから、両者を区別する特徴として使用することはできない。キクイモ栽培観察の事例で、塊茎はイヌキクイモと同じ様であったとの報告があるが、今回の実験でこのことも理解ができる。
 しかしこれは少々やっかいである。野外で植物体を引き抜いたとき、こぶの多い塊茎がつながってくればキクイモと判断でき、根茎がちぎれて全く塊茎がついてこない場合はイヌキクイモの可能性が高くなる。しかしこぶの多い塊茎はみられないが、中途半端に紡錘形の塊茎が複数個つながってきた場合には慎重な判断が必要であり、判断に迷う場合もありそうである。

イヌキクイモの学名
 Webによる
Flora of North America の Helianthus tuberosus の項をみると、H. tuberosus はアメリカ原住民などが塊茎を食用として利用してきたために分布が非常に広げられ、原産地の北米でも原分布の特定が難しいことや、本種が変化に富んでいて他の倍数体種との交雑もあるらしく、またH.pauciflorusH.resinosusH.strumosus(久内がイヌキクイモにあてた学名の植物で、後に誤用とされた) など複数の種類と混同されているらしいことなどが記されており、多くの種が複雑に入組んで、日本よりいっそうやっかいな構図をもっているようである。

◇上記のことから多くの野菜の例のように、野生のH.tuberosus からできた塊茎のうち、大きなものを種芋として食用を目的にした栽培を長年繰り返すことで、塊茎や地下部などが従来と異なる性質を安定して維持した植物ができたとすれば、種内分類群として区別することはありえる。北米ではこの論議があるかないかは不明であるが、日本で呼ぶキクイモ・イヌキクイモの両タイプを、ともにH.tuberosus と認識している可能性があり、実際の分布でも日本と同様にイヌキクイモ的植物の方が一般的で、個体数も多く存在するなどということも充分考えられる。

◇日本では、1859年(安政6年)に英駐日総領事
R.Alcock が伝来し栽培を勧めたといわれた植物は、こぶの多い大きな塊茎を作るタイプが中心だったと考えられ、それがキクイモH.tuberosus とされ、その後の文献ではこぶの多い大きな塊茎が特徴とされた。久内1949が「キクイモとは別に、花期早く、葉深緑色、塊茎小さく形チョロギ状の物が有るが、キクイモと混同されているのでイヌキクイモとかチョロギイモとかしたいと思う」と、はじめてイヌキクイモをとりあげて以後は、多くの文献で両種を区別するための混乱がつづくことになった経緯がある。

◇以上のように考えると、キクイモとイヌキクイモがそれぞれ区別されるとした場合は、北米での H.tuberosus は日本でのイヌキクイモに与えられるのが適当といえないのか、その場合キクイモはH.tuberosus の種内分類群として変種か品種としての位置づけになるのが本来の姿ではないのか、などの疑問が残る。
 しかし、Flora of North America における H. tuberosusH.pauciflorusH.resinosusH.strumosus での各項をみても、塊茎の形状や根茎の形状に関する記述や地下部による種の詳しい区別などはみつからなかったので、塊茎や根茎に関する研究がなされているかどうかはわからず、北米では日本でのイヌキクイモ・キクイモの両方に対応する学名のうち、片方が存在しない可能性はある。

 この先は専門家による研究を待たねばならないが、今のところキクイモ(Helianthus tuberosus L.)、イヌキクイモ(Helianthus sp.)、としておくのが妥当であろう。

今後の問題点
◇昨年(HP07/12)も記したが、キクイモとイヌキクイモとを区別する場合、区別点が地下部だけでは環境保全の観点からも実用的ではなく、地上部での区別点の認識が急がれる。地下部による種の確認ができた個体での、地上部の区別点が認識されることが望まれる。

◇今回は塊茎によってキクイモ・イヌキクイモともに複数の地上茎を伸ばす場合があった。栽培農家からのWeb情報で、茎は1本だけ残すとあったことから昨年も今年も複数の芽が出た場合にはつんでしまったが、葉の多い場合に地下部の発達も良い結果であることから、出芽した茎はそのまま生育させた方が地下部の発達にとっては良好であるに違いない。

◇前回・今回と地下部確保の観点からプランターでの育成を試みたが、植物体の成長は地上部も地下部もプランターでの栽培より地植えの方が良いことは認識しておく必要がある。

謝辞
 今回の実験では、新潟県の大橋成好氏には新潟産キクイモの塊茎を、東京都の花井幸子氏には長野産キクイモの塊茎をご提供いただき使用させていただいた。ここに厚く御礼申し上げます。

余談(イヌキクイモの根茎は中空である?)
 今回の結果を検証していく中で、イヌキクイモの乾燥した根茎が中空であることに気がついて色めきたった。キクイモの根茎はどれをみても中実であったので、もしこれで両者を区別できるとしたらありがたい着目点となるのだが?・・・・・しかし、これは根茎中の成分(澱粉などか?)が乾燥することによって体積的に収縮して外皮側に片寄るために中心部が空いて中空となるものと考えられ、キクイモでも時間がたてば同じことがおきるものと思われる。なかなか我々に都合の良い特徴はみせてくれない植物である。
<08/12/17;山口純一> この頁top

尚、文中に筆者の感違い間違いなどがあるかもしれません。またご意見ご指摘などございましたら、ご教示賜りますようお願い申し上げます。


 (図1.新潟産キクイモ 花は咲かず)       ◇水はけの悪いやや粘質土で育成       (図2.長野産キクイモ 花は咲かず)
キクイモの塊茎と根茎
 (図3.新潟産キクイモ 開花した)            ◇昨年使用した土で育成            (図4.新潟産キクイモ 花は咲かず)
キクイモの塊茎と根茎

 (図5.新潟産キクイモ 花は咲かず)            ◇腐葉土を混ぜた土で育成           (図6.長野産キクイモ 花は咲かず)
キクイモの塊茎と根茎この頁top

 (図7.埼玉産イヌキクイモ 開花した)             ◇腐葉土を混ぜた土で生育           (図8.埼玉産イヌキクイモ 花は咲かず)
イヌキクイモの塊茎と根茎

 (図9.埼玉産イヌキクイモ 開花した)             ◇腐葉土を混ぜた土で生育
イヌキクイモの塊茎と根茎
(以上の総ての地下部図は、同じ縮尺にしてある) この頁top

(図 根茎の節と芽)
キクイモの根茎の節部分
キクイモの根茎図

(図 塊茎のこぶのメカニズム) 塊茎は根茎と同じ成り立ちであるが、節間は詰まり肥大し、芽は十字対生に位置し膨出している。
キクイモ・イヌキクイモの塊茎の芽
◇「矢印」は芽を示す。塊茎の元から先に向かって、節ごとに白と黒の順に芽が十字対生の位置に出現する。赤矢印は途中部分から新たに十字対生で出現した芽で、次の芽(黄矢印)も十字対生に出現する。(キクイモは図3でできた塊茎、イヌキクイモは図7でできた塊茎)

(図 今回栽培に使用した新潟産塊茎<大橋氏撮影>)
キクイモの塊茎
◇栽培に使用した塊茎は総て撮影をしてあったが、PC操作ミスにより紛失し掲載できないが、長野産は更に一回り大きな塊茎であった。


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