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メドハギとシベリアメドハギとの雑種〕(08/10/19)

 2008年10月11日に東京都稲城市の多摩川河畔にてシベリアメドハギを見る会を行ったおり、藤井良造氏より「上流でカラメドハギ?、および雑種らしきものを見ている」との話があり、2008年10月15日に藤井氏と現地調査を行った。
 この場所は筆者所属の会の植物観察会が10月5日にあり、その折に講師の畔上能力先生(八王子自然友の会会長、山と渓谷社「野に咲く花」執筆者)に、稲城市でシベリアメドハギを見る会を予定している旨をお話しすると、上流に雑種も含めて生育しているとのご教示を受けた場所と同一であった。藤井氏も生育場所はご自身でみつけられたものであるが、以前に畔上先生から同様のご教示を得ておられた。現地ではメドハギに混じってシベリアメドハギが散在し、更にメドハギとシベリアメドハギとの雑種と推定される個体(以下雑種と称す)が幾株かみられた。以下に雑種と推定をした詳細を記す。

《雑種と判断した事由》
◇開放花の萼裂片の幅、先の細まりかた、上側の2つの萼裂片の合着位置など(図7)、メドハギとシベリアメドハギとの中間的である(図1)。萼裂片の脈は、閉鎖花・開放花ともにシベリアメドハギと同様に3脈以上が明瞭である。<メドハギでは1〜3脈あるが1脈が明瞭である>

◇果実の表面は毛が密生し、ややシベリヤメドハギに似る(図4)。<シベリアメドハギの毛は密生してやや長く、特に縁の毛は長くみえる(図3)。メドハギの毛は短く疎らで、果実表面の不規則な荒い網状の筋がみえる(図5)。>

◇開放花の小花柄は1mm前後。<メドハギの開放花の小花柄は1mm前後、シベリアメドハギの開放花の小花柄は2〜3mm。>

◇透視した小葉の脈の形状は網状の部分がある(図2)。シベリアメドハギと類似した葉もあるが、網状部分とメドハギ的形状をもつ部分が混在する葉もある。全体的にはシベリアメドハギに似るが、やや中間的である。

◇枝には正常な大きさに成長した果実は大変少ない。また、正常な大きさにみえる果実でも未熟果が多く、同一株から採集した13個のうち、充実した果実は2個で11個は未熟であった。枝につく果実が少ないのは、正常な大きさでも未熟な果実は落下しやすいためと、成長しない果実が圧倒的に多いことも理由の一つだと考えられる。

以下図を示す。

図1 萼と果実   ( 拡大図 シベリアメドハギ  拡大図 雑種  拡大図 メドハギ
シベリアメドハギ Lespedeza juncea、シベリアメドハギ×メドハギ、メドハギLespedeza cuneata 頁top

図2 小葉の透視脈
メドハギLespedeza cuneata、シベリアメドハギLespedeza juncea、シベリアメドハギ×メドハギ


図3 果実の毛拡大 シベリアメドハギ
シベリアメドハギLespedeza juncea 頁top

図4 果実の毛拡大 雑種
シベリアメドハギ×メドハギ(中間形 頁top

図5 果実の毛拡大 メドハギ
メドハギLespedeza cuneata 頁top

図6 萼と果実 拡大 シベリアメドハギ
シベリアメドハギ 頁top

図7 萼と果実 拡大 雑種
シベリアメドハギ×メドハギ

図8 萼と果実 拡大 メドハギ
メドハギLespedeza cuneata 頁top

《地域での特性とも考えられる事項》
◇この地域のメドハギ類では茎や枝の色が、メドハギは緑色〜緑褐色を帯び、雑種は赤味帯びるものが多く、シベリハメドハギはやや紫渇色を帯びるものが多い傾向がみられた。しかし稲城地域でのシベリアメドハギでは茎や枝の色はメドハギと特に変わらず、植物体の色との関連は各地の個体を広く調べる必要があり、今後の課題となる。

◇枝に付く葉のほとんどが葉表を枝に伏せてやや密着させ、一見すると葉を閉じているように感じさせる個体を多数みかけた。この現象は特に雑種に多くみられたが、メドハギやシベリアメドハギでも同様な状態のものがみられ、種との関係や現象のおきる理由は判らない。

《野外での雑種の着目点》
◇植物体は丈が比較的高い傾向があり、低い個体をあまり確認できなかった。短い枝が非常に少なく、やや長い枝がほとんどで、主茎が頂部で止まるものが多く(ヤブタバコほど顕著ではない)、従って全体が箒状になる傾向がみられる。<メドハギやシベリアメドハギでは主茎は長く伸びて抽出し、長い枝と短い枝が混在して時に枝が密集する部分がみられ、箒状とはならない。>

◇要約すると、植物体の丈がやや高く、短い枝が少なく長めの枝が箒状に出ており、枝上に果実が殆どみられない。残っている果実を調べ、多くがほぼ未熟であれば雑種と推定できる。

《謝辞》
 本項を掲示するに当たり、生育地のご示唆をいただいた畔上能力先生、ご案内いただいた藤井良造氏(東京都多摩市)に感謝申し上げます。(08/10/19;山口純一)

《学名》
メドハギ        
Lespedeza cuneata (Dum. Cours.) G.Don
カラメドハギ     Lespedeza inschanica (Maxim.) Schindl.
シベリアメドハギ
Lespedeza juncea (L.f.) Pers.

《参考文献》
浜口哲一 2001.マメ科 ハギ属.神奈川県植物誌2001,pp.897-902.神奈川県立生命の星・地球博物館.
林 弥栄(監修) 1989.山渓ハンディ図鑑1 野に咲く花,624pp.山と渓谷社.
大橋広好 1982.マメ科 ハギ属.日本の野生植物 草本U離弁花類,pp.204-206.平凡社.
大橋広好 2003.マメ科 ハギ属.日本の帰化植物,pp.108-110.平凡社.
大橋広好 根本智行 2003.日本自生種と誤認されたマメ科ハギ属の2種.植物研究雑誌78:42-47.

《茎や枝の色について、各地域での状況確認依頼のお願い》
 今回シベリアメドハギとメドハギとの雑種を確認した地域においては、雑種は茎や枝が赤味を帯びており、シベリアメドハギは紫褐色を帯びるか、または紫褐色の縦筋が顕著であった。そのため一瞥での種推定が茎や枝の色で見当がつき便利であったが、筆者の知る他地域でのシベリアメドハギでは茎や枝は緑色〜緑褐色を帯びてメドハギと同様であり、更に多くの地域での検証が必要と考えられる。他地域での茎や枝色の情報をお寄せくださるよう御協力いただきたく、よろしくお願いいたします。


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