〔ヤナギ属の葉の縁の巻き方と、鋸歯についての考察〕  ヤナギ科top  トピック目次   HPtop    topic13

 ヤナギ科ヤナギ属の葉の新葉は、側縁が裏巻きするものがあり分類における重要なキーとされている。筆者は本属種を覚えたいと考え入門用の検索表を作成し本HPに掲載したが、その過程で葉の縁の巻き方について参考とした各文献の記述に、いくつか相反するものがあった。
 葉の側縁の巻き方は複数あり、実物での検証をしてみて実態が少しわかってきた。これからヤナギ属を学ぶ方々はこれを理解しておく必要があり、本検索表を修正するに際し整理をしておく。加えてヤナギ属の葉の鋸歯についても検索のキーとなりえると考え、新たな視点から鋸歯を整理したので記しておく。 図2 鋸歯図
図1
ヤナギ属の葉の巻き方図

◆新葉の縁の巻き方について

 ヤナギ属の葉の出葉は複数枚が表巻きに固く集まっている。伸びだして固まりがゆるみほぐれてくると新葉の側縁は「の字」状に裏側に巻込む種類があり、キヌヤナギ節などに顕著にみられる(図1A)。また、新葉が展開を完了するまでの間に、側縁が裏側に軽く弧状に反る種類もあり、カワヤナギ節などが代表的にとりあげられるが、この現象は多くの種でみられる(図1B)

◇キヌヤナギ節に関してはほぼ総ての文献で検索や本文に葉の巻き方の記載があり問題がない。以下引用すると、
キヌヤナギ
(S;葉は若いときは両辺が外方へ巻く)(G;若葉は先を除いて縁は裏面に巻く)(H;枝端の若葉は先端部を除き縁が裏側に巻く)(Y;新葉の縁は裏側に巻く)(KT;新葉はへりが外旋する)(筆者の観察では新葉が展開を完了するまでの間に、側縁は「の字」状に裏側に巻込む<図1A>)
エゾノキヌヤナギ
(S;葉は若いときは両辺が外方へ巻く)(G;若葉は先を除いて縁は裏面に巻く)(H;枝端の若葉は先端部を除き縁が裏側に巻く)(Y;新葉の縁は裏側に巻く)
オノエヤナギ
(S;葉は若いときは両辺が外方へ巻く)(G;若葉の縁は先を除き裏面に巻きこむ)(H;枝端の若葉は先端部を除き縁が裏側に巻く)(Y;新葉の縁は裏側に巻く)(K・T;新葉はへりが外旋する)

◇一方カワヤナギ節の方は多少の混乱が見られる。以下引用すると、
カワヤナギ
(H;枝端の若葉は先端部を除き縁は裏側に巻く)(Y;新葉の縁は裏側に巻く)(K;新葉はへりが外旋する)(T;春季新葉は表巻きするが、しばしば2次的に裏巻きする)(M18;新芽は発生上は外旋はせず、ほつれ始めた葉縁は少しの時期軽く外旋するので、標本ではときどき間違った同定を見受ける)(筆者の観察では新葉は展開を完了するまでの間に、側縁が裏側に軽く弧状に反る<図1B>)
エゾノカワヤナギ
(H;枝端の若葉は先端部を除き縁は裏側に巻く)(Y;新葉の縁は裏側に巻く)
コリヤナギ
(G;若葉は内に巻いて枝の先をつつむ)
イヌコリヤナギ
(G;若葉の縁は上端をのぞき強く外に巻く)(Y;新葉の縁は巻かない)(筆者の観察では新葉は展開を完了するまでの間に、側縁が裏側に軽く弧状に反る<図1B>)

 カワヤナギはキヌヤナギ節の種と比べて側縁の裏巻きの仕方が異なるが、標本にすると共に裏に巻かれているので長谷川(M18)の言われる誤同定につながると考えられる。またSとGが、いずれもカワヤナギとエゾノカワヤナギについて新葉の側縁の巻き方に触れていないのは、キヌヤナギ節のしっかりとした巻き方と同一レベルで論ずるものでないからのことであろうと想像する。

 イヌコリヤナギについては、SやHが新葉の側縁の巻き方について触れていないのも上記と同じ理由であろう。GとYで相反する記述がみられるが、これも同様な下地があるからの混乱であろう。

◇バッコヤナギについてはSを除き新葉の側縁が裏巻きする記述がある。引用すると、
バッコヤナギ=ヤマネコヤナギ】
(G;若葉の縁は裏面に巻く)(H;枝端の若葉は先端部を除き縁が裏側に巻く)(Y;新葉の縁は裏側に巻く)(T;若葉は内巻き、後に葉縁が軽く外旋する)
 筆者はまだ検証していないが、Tが軽く巻くとしていることから図1Bのタイプが考えられる。

◇以下の種類は相反する記述となっている。
サイコクキツネヤナギ
(G;若葉は縁が裏面に巻く)(Y;新葉の縁は巻かない)
ユビソヤナギ
(G;若葉の縁は外曲する)(H;枝端の若葉は縁は著しく裏側に巻く)(Y;新葉の縁は巻かない)(Y図では新葉の縁が特徴的に裏に反っているが、これを考慮に入れるか入れないかの判断の違いであろうが、筆者はまだ検証していない)

◇その他の種では、オオキツネヤナギ(08/8/20)、ネコヤナギ(08/8/27)、コゴメヤナギ(08/8/27)、ロッカクヤナギ(08/8/27)、などで新葉が展開を完了するまでの間に、側縁が裏側に軽く弧状に反る現象がみられ、いずれも図Bのタイプに相当し特別な現象ではないことがわかった。
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◆成葉の縁の巻き方について

 更に成葉でも葉の縁が乾燥すると裏側に強く反ったり
(図1D)、巻込む(図1C)種がみられ、以下引用すると、
ノヤナギ
(G;縁は全縁で狭くそりかえる)(H;全縁で縁は裏側に巻く)(Y;縁は裏側に巻く)
キヌヤナギ
(B成葉図で;へりが裏に巻く)(筆者観察では成葉は乾燥してくると葉の縁が強く反り巻き込む<図1C>)

 ノヤナギでの各文献での表現の違いに注目していただきたい。おそらくGの表現のような成葉時のキヌヤナギ的なものではないかと想像する。

 その他筆者観察では、オノエヤナギの成葉の縁は乾燥するとキヌヤナギ同様に強く反り巻き込む
(図1C)。またバッコヤナギも乾燥すると成葉の縁が極狭く裏に強く反る(図1D)コゴメヤナギも乾くと成葉の縁が狭く裏側に反る(図1D)。この傾向は比較的質厚の種類ではみられるように思われる。(08/8/23記;08/8/31追記;山口純一)  頁top
◆ヤナギ属の葉の鋸歯について

 ヤナギ属では鋸歯の先は腺となり、腺が長いものや短いもの、腺先が前を向くものや葉縁に向かって下向きのものなど、多様であるが検索キーにはそのままでは今のところ結びつかない。鋸歯の形は属全体では連続する可能性もあるが種によって違いがあり、少し細かく鋸歯の形を分類して見ると形は以下図のようなタイプに分けることができる。下山祐樹氏(2008)はユビソヤナギとオノエヤナギの葉の鋸歯の違いに着目され(検索表の参考HP参照)、本検索表でも取り入れさせていただいた。ヤナギ属は難しいグループでもあるので、他の種間においても鋸歯が同定の役に立てないか研究の必要があり今後に期待したい。
 本HPの検索表では、以下鋸歯タイプを取り入れてみる。

 なお鋸歯の形は葉の展開が完了し且つ葉色が安定した標準的な成葉で判断すべきである。新葉と若葉と成葉ではそれぞれ鋸歯の形が微妙に異なるようであり、今後の課題としては花時と花のないときでも違いがないか検証が必要と考えている。    
図2
ヤナギ属の葉の鋸歯

尚、鋸歯などの用語は筆者の独断で使用しているものである。
(08/8/23;山口純一)

謝辞;長谷川義人氏にはキヌヤナギ節とカワヤナギ等との新葉の側縁の巻き方についてなど、色々とご教示いただいた。厚く御礼申し上げます。 頁top

《主な参考文献》
長谷川義人 1987. カワヤナギとその学名.MAKINO 18.牧野植物同好会. (略記 M18)
長谷川義人 2001. ヤナギ科.神奈川県植物誌2001,pp.528-545.神奈川県立生命の星・地球博物館. (略記 K)
長谷川義人 2003. ヤナギ科.千葉県の自然誌 別編4 千葉県植物誌,pp.86-99,102-105.千葉県. (略記 T)
木村有香 1989. ヤナギ科 日本の野生植物 木本T,pp.31-51.平凡社. (略記 H)
北村四郎 村田源 1979.改定版 原色日本植物図鑑 木本編U,545pp.保育社. (略記 G)
杉本順一 1978. 改訂増補 新日本樹木総検索誌,577pp.井上書店. (略記 S)
吉山 寛・石川美枝子 1992. 落葉図鑑,372pp.文一総合出版. (略記 B)
吉山 寛 2000. ヤナギ科 樹に咲く花 離弁花1,pp.38-121.山と渓谷社. (略記 Y)

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