米倉分類表・大場分類表の、従来説との違いと傾向〕     日本のシダ植物、各文献別の科属の対比  トピック目次  HPtop  sidakazokutaihi-2

 「各文献別の科属の対比」には、2009年発刊のAPGUを反映させた進化分類法による分類体系を採用した植物分類表、米倉(2009)、大場(2009)の内容と、従来の日本のシダ植物の分類体系を事実上代表していると考えられる2文献、中池(1992)、岩槻(1992)での扱いとが、どのような関係になったかを中心に記述した。本頁ではこの記述部分を抜き出し、傾向ごとに視覚的工夫を加え整理分析してみた(比較に関係しない行は省いた)。(2010/1/16;山口純一)

(抜き出した記述とは、従来の日本のシダ植物の分類体系を事実上代表していると考えられる2文献、中池1992、岩槻1992、と米倉2009、大場2009の、何れかが異なる扱いをしている部分である。言葉を変えると、RANH全てが一致しているもの以外、である)
(APGUは被子植物の分類体系であり、米倉(2009)、大場(2009)でのシダ植物は系統関係に基づく分類体系であるSmith et al.2006に準拠している)

基本知識》
 アマチュアがシダ植物を研究する場合に、最も利用される国内の文献は岩槻(1992)であろう。広く普及している平凡社の日本の野生植物シリーズの1冊でもあり、引用されることも多く、各地の主要図書館には比較的揃えられている。田川(1959)も保育社の原色図鑑シリーズで優れた図鑑であり、各地の図書館にも比較的蔵書されているが、岩槻(1992)の方が新しい情報があることと、カラー写真がふんだんにあり解説もより詳しいことなどから、引用や利用度は高いと思われる。シダを少し深く追求して行く者には中池(1992)も重要な文献で、引用されることも多く、解説は短いが基準標本を基に特徴部分などが手際よく記載されている。しかし普及度は少なく(正確に調べた訳ではない)、各地の図書館においても蔵書されている所は少ない。
 中池(1992)と岩槻(1992)とでは、分類に関しての考えが大きく異なる部分があるため、科属の対比を見てもわかるように科や属がまったく異なる事例がまれではないことから、米倉・大場の分類表において、シダ植物の分類がどのような取り扱いがされているかは、大変興味深いものがある。尚、今回の米倉・大場の分類表においても、日本のシダ植物関連の文献としては岩槻(1992)のみが引用文献・基礎文献として挙げられており、中池(1992)は挙げられていない。

岩槻邦男 1992.日本の野生植物シダ,311pp.平凡社.<略記H>
中池敏之 1992.増補改訂版 新日本植物誌シダ篇,868pp.至文堂.
<略記N>
大場秀章 2009.植物分類表,515pp.アボック社.<略記A>

米倉浩司著 邑田仁監修 2009.高等植物分類表,190pp.北隆館.<略記R>

《視覚的に示す記号式   ( 「=」:同じ扱いをしている。 「≒」:ほぼ同じ扱いをしている。「≠」:扱い方が異なる。 )

・米倉・大場での扱いが同じ場合、青色系記号式を用いた。
  (RAが同見解)【RA】≠【NH】   (RAHが同見解)【RA=H】≠【N】   (RANが同見解)【RA=N】≠【H】

・米倉と大場の扱いが異なる場合、緑色系記号式を用いた。
  
(RNが同じで、AHが同じで、RAの見解が分かれた)【R=N】≠【A=H】  (AHが同じで、あとは見解が分かれた) 【R】≠【A=H】≠【N】

・NまたはHの扱いが、RまたはAの扱いと同じ場合には、「N・H」の文字を強調した。 【RA=H】 【RA=N 【A=H】 【R=N

《米倉・大場分類表で、中池・岩槻図鑑と異なる部分の一覧》  この頁top

■ヒカゲノカズラ科をRは細分してNと同様な扱いとし、AはHと同じく一属にまとめ、扱いが分かれた。
【R=N】≠【A=H
◇R・Aはハナワラビ属を細分せず一つにまとめHと同様な扱いとし、Nが細分して用いたヒメハナワラビ属、ナツノハナワラビ属を分けていない。【RA=H】≠【N】
■日本のコケシノブ科は、Aは4属としてHと同様な扱いとした。Nは細分して13属としており、Rは7属として中間的である。【R】≠【A=H】≠【N】
◇Nは、Hymenophyllum(コウヤコケシノブ属)とMecodium(コケシノブ属)を分けているが、HはHymenophyllum(コケシノブ属)としてまとめており、R・AはHと同様な扱いとしている。【RA=H】≠【N】
■日本のウラジロ目を、R・Aはウラジロ科とヤブレガサウラボシ科の二科とし、Hで分けられているスジヒトツバ科はヤブレガサウラボシ科に含められた。Nはヤブレガサウラボシ属とヒトツバ属をウラボシ科として扱っている。【RA】≠【N】≠【H】
■日本のフサシダ目をR・Aはフサシダ科とカニクサ科の二科として扱っている。従来N・Hは一科としてまとめていた(Hフサシダ科、Nカニクサ科)。【RA】≠【N≒H】
◇日本のフサシダ目をRはSchizaea(フサシダ属)とLygodium(カニクサ属)の二属とし、N・Hの扱いと同様である(NはSchizaeaカンザシワラビ属)。Aはフサシダ科をActinostachys(フサシダ属)とSchizaea(カンザシワラビ属)に分け、カニクサ科のLygodium(カニクサ属)と合わせ三属とし、扱いが分かれた。
【R≒NH】≠【A】
■日本のデンジソウ目をR・Aはデンジソウ科とサンショウモ科の二科とし、Nと同様な扱いをしている。Hはアカウキクサ科を加え三科としていた。【RA=N】≠【H】
◇Nはタカワラビ属をイノモトソウ科においているが、R・Aはタカワラビ属をHと同様にタカワラビ科として扱っている。【RA=H】≠【N】
■ホングウシダ科は、Nはイノモトソウ科に含めているが、R・AはHと同様にホングウシダ科として取り扱っている。【RA=H】≠【N】
■Hでコバノイシカグマ科としたものは、Nではイノモトソウ科に含められていたが、R・AはHと同様にコバノイシカグマ科として取り扱っている。【RA=H】≠【N】
◇Nはフジシダ属をオオフジシダ属と分けているが、Hはオオフジシダ属に含めており、R・AはHと同じ取り扱いをしている。【RA=H】≠【N】
■H・Nでのシシラン科は、R・Aではイノモトソウ科に含まれている。【RA】≠【NH】
■Hでのホウライシダ科は、R・AではNと同様にイノモトソウ科に含まれている。【RA=N】≠【H】
■Nでのミズワラビ科は、Hではホウライシダ科に含まれたが、R・Aではイノモトソウ科に含まれている。【RA】≠【N】≠【H】
■カラクサシダ属は、従来Nではイノモトソウ科、Hではホウライシダ科とされたが、R・Aではウラボシ科として扱われている。【RA】≠【N】≒【H】
■Hはチャセンシダ科をチャセンシダ属一つにまとめたが、Aも同じ扱いとした。Nは細分して4属として扱ったが、RはKと同様にホウビシダ属を分けてチャセンシダ属と二属として扱っている。【R=K】≠【A=H】≠【N】
■Hでヒメシダ科としたものは、Nではオシダ科として扱われているが、R・AはHと同様にヒメシダ科として扱っている。【RA=H】≠【N】
■R・Aは日本のヒメシダ科をHと同様に二属として扱うが、Nは細分してオシダ科の中で18属に分けて扱っている。【RA=H】≠【N】
◇RはStegnogrammaをアミシダ属と称している。AはHと同様にミゾシダ属と称し呼称が分かれた。Nはミゾシダ属Leptogrammaとする。【R】≠【A=HN
■Hでイワデンダ科とされたものを、Nはオシダ科として扱うが、R・AはHと同様にイワデンダ科として扱っている。【RA=H】≠【N】
■コウヤワラビ科を除いた日本のイワデンダ科をHは9属として分けているが、AはHと同様な扱いとしている。Rは10属として分けているが、Aとの違いはヌリワラビ属とイワヤシダ属を区別し、キンモウワラビ属を暫定的にオシダ科に含めている。Nはオシダ科の中で12属に分けて扱っている。【R】≠【A=H】≠【N】
◇R・AはHと同様にシシガシラ属をヒリュウシダ属に含めている。Nはシシガシラ属を分けている。【RA=H】≠【N】
■コウヤワラビ属とクサソテツ属は、Hはイワデンダ科、Nはオシダ科に含めたが、R・Aはコウヤワラビ科として扱っている。【RA】≠【N】≠【H】

■Rは日本のオシダ科を15属に分けているが、各属はNの扱い(13属)にほぼ近い。Aは6属としてHの扱いに近い。【R≒N】≠【A≒H
■ヘツカシダ属とアツイタ属は、AはHと同じくツルキジノオ科に置いている。RはNと同様にオシダ科に置いていて、扱いが分かれた。【R=N】≠【A=H
◇キンモウワラビ属は、Hではイワデンダ科、Nではオシダ科に置かれていたが、RはNと同様にオシダ科に、AはHと同様にイワデンダ科にと、扱いが分かれた。【R=N】≠【A=H
◇ホウノカワシダ属は、RはNと同様にホウノカワシダ属として扱い、AはHと同様にオシダ属に含まれ、扱いが分かれた。【R=N】≠【A=H
◇ナライシダ属は、AはHと同様にカナワラビ属に含んで扱われ、RはNと同様にナライシダ属として区別し、扱いが分かれた。【R=N】≠【A=H
◇ナンタイシダ属は、AはHと同様にオシダ属に含んで扱われ、RはNと同様にナンタイシダ属として区別し、扱いが分かれた。【R=N】≠【A=H
◇従来N・Hではイノデ属とされたオリヅルシダ等を、Rは新たにオリヅルシダ属として扱っている。Aは従来どおりイノデ属として扱いが分かれた。【R】≠【A=NH
◇サツマシダ属は、RはG・Sなどと同様にサツマシダ属として扱っており、AはNと同様にカツモウイノデ属に含まれるとし、扱いが分かれた。【R】≠【A=N
◇ヘツカシダ属とアツイタ属は、AはHと同様にツルキジノオ科としている。RはNと同様にオシダ科として、扱いが分かれた。【R=N】≠【A=H

■RAはナナバケシダ科をオシダ科から分けて扱う。NHはオシダ科としていた。【RA】≠【NH】
◇ワラビツナギ属は、Rはナナバケシダ科として扱っており、AはHと同様にツルシダ科とし、扱いが分かれた。Nはシノブ科としている。【R】≠【A=H】≠【N】
◇タマシダ属は、AはHと同様にツルシダ科として扱っているが、Rはツルキジノオ科とし、扱いが分かれた。Nはシノブ科としている。【R】≠【A=H】≠【N】

■Hはヒメウラボシ科をウラボシ科から分けており、R・AはNと同様にウラボシ科に含めて扱っている。【RA=N】≠【H】

■日本のウラボシ科をAは15属に区別し、Hとはクリハラン属(Aではヌカボシクリハラン属に含まれる)とカラクサシダ属(Hではホウライシダ科)の他は同じ扱いをしている。Rは21属に区別し、Nとはヒトツバノキシノブ属(Rはノキシノブ属に含めている)とカラクサシダ属(Nではイノモトソウ科)の他は同じ扱いをしている。【R】≠【A】≠【N】≠【H】
◇カラクサシダ属は、Nではイノモトソウ科、Hではホウライシダ科とされていたが、R・Aではウラボシ科として扱われている。【RA】≠【N】≠【H】
◇Lepidogrammitis(Rはオオボシシダ属、Nはオニマメヅタ属)をR・Nは属として区別し、AはHと同様にマメヅタ属に含まれるとして、扱いが分かれた。【R=N】≠【A=H
◇Phymatosorusを、RはNと同様に属として扱い(Rはタカウラボシ属、Nはオキナワウラボシ属)、AはHと同様にヌカボシクリハラン属に含むとして、扱いが分かれた。【R=N】≠【A=H
◇Hはヌカボシクリハラン属とクリハラン属を分けているが、R・Aは属名称は異なるが同じ属として扱っている。Nはヌカボシクリハラン属をイワヒトデ属に含めている。【R≒A】≠【N】≠【H】
◇Phymatosorusは、AはHと同様にヌカボシクリハラン属に含めるが、RはNと同様に属として区別し、扱いが分かれた(Rはタカウラボシ属、Nはオキナワウラボシ属)。【R≒N】≠【A=H
◇ヤノネシダ属をRはNと同様にヤノネシダ属として区別したが、AはHと同様に属とはせず(Aはヌカボシクリハラン属に含む、Hはクリハラン属に含む)、扱いが分かれた。【R=N】≠【A=H
◇ハカマウラボシ属については、AはHと同様に扱いはなく、RはNと同様にハカマウラボシ属とし、扱いが分かれた。【R=N】≠【A=H
◇Rはキレハオオクボシダをトラノオウラボシ属Tomophyllumとした。AはN・Hと同様にキレハオオクボシダ属Ctenopterisとして扱っている。【RA=NH
◇RはNのシマムカデシダ属Prosaptiaをチョクミシダ属と称した。AはHと同様にキレハオオクボシダ属(Hはホウライシダ科)として称している。【R≒N】≠【A】≠【H】
◇Nで扱ったヒトツバノキシノブ属は、R・AはHと同様にヒトツバ属に含めて扱っている。【RA=H】≠【N】
◇アオネカズラ属については、AはHと同様にエゾデンダ属に含むとし、RはNと同様に属として区別し、扱いが分かれた。【R=N】≠【A=H


《傾向分析》 (≒は=と読みかえて検証した)  この頁top

・米倉(2009)・大場(2009)・中池(1992)・岩槻(1992)の何れかが異なる扱いをしている部分49行のうち、米倉(2009)と大場(2009)の扱いが分かれたのは26行(緑色記号式)、同じ扱いであったのものが23行(青色記号式)であった。
・米倉と大場の扱いが同じである青色記号式23行のうち、岩槻と同じ扱いとなる部分は(
【RA=H)11行、中池と同じ扱いとなった部分は(【RA=N)3行。
・米倉と大場の扱いが分かれた緑色記号式26行のうち、米倉と岩槻が同じ扱いとしたのは(【R=H) 1行、米倉と中池が同じ扱いとしたのは(【R=N)16行
・米倉と大場の扱いが分かれた緑色記号式26行のうち、大場と岩槻が同じ扱いとしたのは(【A=H)22行、大場と中池が同じ扱いとしたのは(【A=N) 4行。

(上記を表にすると)

中池(1992)・岩槻(1992)・米倉(2009)・大場(2009) の何れかが異なる扱いをしている部分49行
米倉と大場の扱いが同じ
(青色記号式
23行 米倉と大場と岩槻と同じ扱い【RA=H 11行 大場と米倉と中池と同じ扱い【RA=N 3行
米倉と大場の扱いが分かれた
(緑色記号式
26行 米倉と   岩槻が同じ扱い【R=H 1行    米倉と中池が同じ扱い【R=N 16行
   大場と岩槻が同じ扱い【A=H 22行 大場と   中池が同じ扱い【A=N 4行

 米倉(2009)と大場(2009)では、扱いが分かれた部分が 53%(23対26) を占め、少なくともシダ植物分野に関しての科属の取り扱い方では、両書はかなり異なる内容である。
 オシダ科、旧シノブ科、ウラボシ科などで、扱いが分かれる傾向であった(緑色記号式が多い)。(一覧の行の並びは「科属の対比」と同じ)

(同じ扱いをまとめると)
49行中の米倉(2009)・大場(2009)の中で、中池(1992)または岩槻(1992)と同じ扱いである部分 
合計 49行 米倉岩槻が同じ扱いの計【RA=H【R=H 12行 米倉中池が同じ扱いの計【RA=N【R=N 19行
大場岩槻が同じ扱いの計【RA=H【A=H 33行 大場中池が同じ扱いの計【RA=N【A=N 7行

 米倉(2009)においては、岩槻(1992)と中池(1992)と同じ扱いの比は、12行:19行 (約2 対 3) となり、中池と同じ扱いが多い。
 大場(2009)においては、岩槻(1992)と中池(1992)と同じ扱いの比は、33行: 7行 (約4.7 対 1) となり、中池と同じ扱いが著しく少ない。

 米倉氏はWeb上で「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)を作成しており、米倉(2009)でも種の和名は原則としてYListによるとしている。YListは特定の見解を示すわけではなく、植物分類に関する多くの見解を取り入れて学名と出典を公開しており、例えばイワデンダ科で岩槻(1992)・中池(1992)・大場(2009)がヘラシダ属としているヌリワラビをYListでみると、文献情報として Sano et al(2000)等が挙げられてヌリワラビ属が標準とされ、米倉(2009)と同じ扱いである。先に記したように米倉(2009)では引用文献として中池(1992)を挙げてはいないが、Ylistには中池(1992)や岩槻(1992)も掲載図鑑として随時散見されることから、反映されているものと思う。米倉(2009)と大場(2009)との上記結果の違いはこの辺にあるのではないかと考えることもできる
 米倉(2009)と大場(2009)においても、日本のシダ植物の分類体系は統一されたものとなっていないが、少なくとも科属の範囲ぐらいは一日も早く定説が確立されてほしいと願う。(2010/1/16;山口純一)
  
この頁top

 syokubutu kensaku