HPtop シダ各図鑑の科属の対比 トピック目次 sida001
《オオイタチシダ物語》
概要 1.オオイタチシダの置かれている背景 2.変異タイプの検索表 3.変異タイプの簡易思考順序 4.変異タイプの解説
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1.オオイタチシダの置かれている背景
(参加MLの中で、ヤマイタチシダとオオイタチシダの違いについての質問に回答した07/1/9返信を、若干編集して再掲)
|教えてください。「オオイタチシダ」と「ヤマイタチシダ」との違いです。
これはなかなか面白い題材です。シダを始めてから2〜3年たっても多くの方が迷うことがある種類でしたが、近年新しい知見が発表され、悩まない種類になりました。この違いを、・正確に、・なるべく遠回りせずに、・簡単に楽に、理解するのには、背景を知ることから入るのが良いと思います。
まず、オオイタチシダ・ヤマイタチシダと、他のシダとの区別(葉質の明らかに異なる物は対象とせず)から考えると、イタチシダ類の最大の特徴は、一番下(根元側)の羽片の、下向き側の、一番内側(主軸側)の小羽片(これを「矢耳小羽片」と称す)、これが大きく長く出ている事ですね。
次に、イタチシダ類のうち、関東では極普通に何処にでも見られる種類に限定すると、オオイタチシダとヤマイタチシダに絞られます。この2種の背景を知ることが大変重要で、知らずに取り組むと無間地獄に落ちます。(他には、ヒメイタチシダ、イワイタチシダ、イヌイワイタチシダなどありますが、稀ですので除外となります)
そこで、明日のために、オオイタチシダを考える上での基本的な背景を示しておきます。
ヤマイタチシダは形質が比較的安定していますが、
オオイタチシダは、その形状や葉質などから区別すると、関東では今のところ5つもの変異タイプが知られます。それぞれが全く別の物のような特徴を持っている特異な存在で、これが混乱させる要因で、シダを敬遠させる元凶ではないかと感じさせるほどです。
オオイタチシダの一つのタイプと、ヤマイタチシダとを比べて理解したつもりでも、別のタイプが現れたときに混乱してしまうのです。
つまり、余り良い比喩ではありませんが、タネツケバナ、ミチタネツケバナ、オオタネツケバナ、ミズタネツケバナ、などを一まとめに「タネツケバナ」と称していると考えてください。この状態にて、タチタネツケバナと「総称のタネツケバナ」との区別を考えることと同じで、ナンセンスといえます。
ではオオイタチシダの5タイプは、それぞれ別の種かというと、明快に別種変種とは言いかねます。何故なら学者の対処する分野だからで、学者も忙しいので、他人の研究に手を貸そうとされる方は少ないようで、現実にはなかなか日の目を見ることは難しいかも知れません。しかしタイプの一つは裸名ではありますが学名がすでにつけられております。 ベニオオイタチシダ
Dryopteris hikonensis(H.Ito)Nakaike form.kawabatae Nakaike.nom.nud.
そしてこのタイプは、葉質がベニシダに近くて、一見トウゴクシダと間違えるか、迷うか、するケースが見られます。
このように、オオイタチシダを思考の対象とする場合は、変異の大変おおきな種であり、関東では今のところ5つの形が知られることを頭において考えてください。
PS
オオイタチシダの5タイプの変異は田中一雄氏が近年解明され、これにより、従来ヤマイタチシダとオオイタチシダとの違いに迷い苦しんだ、多くのシダ愛好家の悩みに終止符が打たれたのではないかと私は考えています。(下に続く) この頁top
(07/1/10返信を、若干編集して再掲)
両種の特徴の違いを取り上げて見ると、一般的には、ヤマイタチシダは葉身の頂部がなだらかに細まり、葉に厚みがあって、その縁はやや裏側に反る感じがあり、裂片の縁の鋸歯が低いか全縁である、などの特徴があり、比較的安定した形態を持っています。
オオイタチシダは、多くは頂部が急に狭くなるものが多いのですが、頂部がなだらかなタイプもあり、葉に厚みがあるタイプや、葉縁が裏側に反る感じのタイプも見られます。ですから、上記ヤマイタチシダの特徴は明確な区別点には成りません。
また、ヤマイタチシダはオオイタチシダより細かく切込んでいる感じがあり、そのせいか裂片が小さい傾向がありますが、これもはっきりした区別点にはなり難いようです。
ソーラスの大小や、袋状鱗片が多いか少ないか、などは程度の問題もあり、簡単に、楽に、の範疇から外れます。
ヤマイタチシダは葉の縁に鋸歯が出ないか少ないことに成っていますが、これも鋸歯が無いわけではなく、程度が弱いということで、明確な区別点には成りません。
結局両種を区別する場合は、只一つのキーでは区別できないと考えます。2つ以上のキーの組み合わせで考えていくことで、そこに解決が見出されてくるのだと思います。
なんだか難しく感じられますが、オオイタチシダは先に述べたように関東では今のところ5つの変異タイプが知られますが、幸い5タイプのそれぞれの違いは大変明瞭で、ここでは細かい説明は省きますが、一度教わるとすぐ覚えられますし、このうち4タイプは何処にでも普通に見られる種類です。
尚、ここに記したオオイタチシダの視点は最も新しい考え方で、マスターされておられる方はまだ少ないと思いますが、近くにこのことを理解している方がおられたなら、現場でオオイタチシダの幾つかのタイプを並べて比べてみるのが、一番楽で早道ですので、もし機会があれば是非それをお勧めいたします。<07/1/13;山口純一> この頁top
2.オオイタチシダの変異タイプの検索表<07/2/21;Y>
《オシダ科 Dryopteridaceae オシダ属 Dryopteris イタチシダ類 》
(この検索に入る前に、オシダ属の中で、T羽軸、小羽軸の下面に基部が広い(袋状含む)鱗片がつく、U矢耳小羽片が発達する、の2点が確認されていることが前提となる)
(シダ植物は一般に難しいので、より判り易くする工夫として「認識手順」を記述してみたが、如何であろうか)(認識手順のTは、立ち止まっての確認が可能な識別点で、これだけでほぼ種を決定できるが、できない場合は手に取っての識別Uに進む)
◆A葉軸下半部から葉柄の鱗片は、直角〜やや下向きに開出してつき、釣り針状に湾曲し先が上向くもの目立つ
◆B葉身はやや細く暗緑色で、艶は少ない;釣針状鱗片は比較的揃って湾曲し、毛状に細い
;深山岩側に生じ、平地には産せず【イワイタチシダ】
◆B葉身はやや細く若草色帯び、やや艶あり;釣針状鱗片は向きが多少乱れる傾向で、やや巾がある
;低山の斜面、地上に生ずる【イヌイワイタチシダ】
(上記2種は、中軸の鱗片が独特な形状で、認識には多少経験を要すが、以下とは別グループである)
◆A葉軸や葉柄の鱗片は斜上向につき、特に湾曲して上を向くことはない
◆B葉柄基部の鱗片は茶褐〜赤渇色
◇葉身頂部はやや頂羽片状で長く、矢耳羽片も特に長い;葉質は厚い 【ナンカイイタチシダ】
(本種の認識手順、T独特な葉の全形→U基部鱗片形質)(神奈川県では絶滅(06年)、千葉県でも稀である)
◆B葉軸の表面は鱗片少なく;葉柄基部の鱗片は他種に比し、漆黒で艶が強く、巾広い;羽軸裏に袋状鱗片少ない
◇葉身頂部はなだらかに狭くなり、急尖しない
◇葉は若草色で、葉身は長5角形;最下羽片は、柄が長め、巾が広い、切込が1回多い、などの傾向がある
(本種の認識手順、T葉色葉形+葉軸表の鱗片量→U基鱗片の色艶+羽軸裏の袋状鱗片量) 【ヒメイタチシダ】
(基鱗片の色は、オオイタチ群の黒色との区別に多少経験要す)(従来から基鱗片の両縁が淡色に抜けるとされてきたが、これは他種にもみられ、キーには適さない)(本種は羽軸裏に袋状鱗片が、無い、殆ど無い、少ない、などと文献にあるが、各検索には出てこない;袋状の認識に経験要すが、無いか少ない傾向はある)(羽軸裏の鱗片は、多いものから非常に少ないものまである)
◆B葉軸の表面には鱗片多く;葉柄基部の鱗片は黒褐色〜黒色
◆C葉身頂部はなだらかに狭くなり、急尖しない(小さい個体では紛れる場合あり、成葉で確認すべし)
◆D葉は濃緑色で艶があり、葉質は厚く感じる;オオイタチシダ変異群より切込が細かく裂片は小さい傾向
◇裂片の縁は下曲する;小葉の先は全縁〜低鋸歯があるが、鋭鋸歯は稀である(鋸歯図)【ヤマイタチシダ】
(本種の認識手順、T葉頂部形+裂片縁曲+裂片の細かさ感→U小葉先の鋸歯)
(小葉先の鋸歯についての各文献での検索キーは、ヤマイタチシダでは 「ほぼ全縁」、「全縁か波形の鈍い凹凸」、「全縁か波型のにぶい凹凸」 等とされ、オオイタチシダでは
「微細鋸歯」、「明瞭な鋸歯」、「はっきりとした鋸歯」 等とされている。実際にはヤマイタチシダにも低鋸歯がみられる小葉はかなりあるし、鋭いか鈍いかは主観の違いとなるので、鋸歯は優先キーとせず、上記手順の様にTにてほぼ他種とは区別できる(葉頂部形は成葉で判断すべし、小葉の場合不明確)と考えるので、U次キーとするのが良いと思う。尚、鈍さ鋭さの判断は経験を要すので、小羽片の鋸歯図を作成したのでご活用戴きたい)
(基部が袋状の鱗片は、種によって、羽軸裏、小軸裏での量には変化があり、ヤマイタチシダ等では特に多く一定の傾向がある;しかしオオイタチ変異群にもそれぞれのタイプ毎の傾向がみられるが、検索のキーとして取入れるには、明確な区分方法が見出せなかった)
◆D葉は濃緑色で艶があり、葉質は厚くなく、全体に形が整い平面的である
◇裂片の縁は下曲せず;小羽片の先に鋭鋸歯がある
◇他類と比し主軸の地肌裸出部が多い傾向;変異群中では最も大きい
(本種の認識手順、T葉頂部形+葉の全形+色艶+葉軸表の地肌→U若い包膜あれば赤色確認) 〔ベニオオイタチシダ〕
◆D葉は艶の無い黄緑色(無艶で帯白感有り、色素に帯紅感長く残る)で、葉質は厚くはない
◇裂片の縁は下曲せず;小葉の先に鋭鋸歯がある
◇小羽片は他種に比べ巾細く、矢耳羽片などは直線的傾向である;主軸も赤味が強い
(本種の認識手順、T葉の色艶+葉頂部形→小羽片形+矢耳羽片形→U若い包膜あれば赤色確認) 〔アケボノオオイタチシダ〕
◆C葉身頂部は急に狭くなり、やや鉾状(小さい個体では紛れる場合あり、成葉で確認すべし)
◆D葉は艶の無い黄緑色で、葉質は厚さ薄さを特に意識しない
◇裂片の縁は下曲せず;小葉の先に鋸歯がある
〔ツヤナシオオイタチシダ〕
(本種の認識手順、T葉の色艶+葉頂部形)
◆D葉は緑〜濃緑色で艶があり、葉質は厚く感じる
◇裂片の縁は下曲する;小羽片の先に鋭鋸歯がある
〔アツバオオイタチシダ〕
(本種の認識手順、T葉頂部形+裂片縁曲+U小葉先の鋸歯)
(小羽片の鋸歯については、鈍さ鋭さの判断は経験を要すので、小羽片の鋸歯図を作成したのでご活用戴きたい)
◆D葉は濃緑〜黒緑色で大変強い艶があり、葉質は薄く感じるが、全体がフラットな感じを受け、滑らかである
◇裂片の縁は下曲せず;小葉の先に鋭鋸歯がある
〔アオニオオイタチシダ〕
(本種の認識手順、T葉の色艶+葉面のフラット感の確認+葉頂部形)
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