頁概要 (Pｄｆファイル) (Pｄｆファイル→キヨセイ詳細図 頁1～3)
◆頁１ 《(仮称)キヨセイ詳細図》
◆頁２ 《図の説明･略語》 《解説》
◆頁３ 《ノート》 《参考資料》
特徴的な部位の部分図 (20１１東京都清瀬市採集)
《図の説明･略語》(ABC順)
Anther(葯)
B:Base of plant(植物体基部)
Bracteole(小苞)
FR:Fruit(Capsule)(果実:蒴果)
FL:Flower(花)
:(fruit stage)(果の時期)
:(part)(部分)
INF:Inflorescence(花序)
INF(part)(分花序)
:(flower stage)(花の時期)
INV:Involucre(総苞)
Ls:Leaf sheath(葉鞘)
:(mouth)(口部)
:(veinlet･closeup)(横小脈･拡大図)
Ovary(子房)
PE:Perianth(花披)
:(side view)(側面)
:(inside.)(内側:内花被)
:(outside.)(外側:外花被)
Pistil(雌しべ)
RH:Rhizome(根茎)
SE:Outer seed coat(外種皮)
:(it changed)(変化した)
SEC:Longitudinal section of the stem(茎の縦断面)
Seed(種子)
Stamen(雄しべ)
Stigma(柱頭)
T:Plant(植物体･植物)
(仮称)キヨセイ Juncus sp. (P2)
大型のイグサ属(Juncus)を2010年に東京都清瀬市の金山調整池でみかけ、2011年6月3日に花を調べたところ、種子が未成熟であったがイ Juncus effusus L. var. decipiens Buchenau in Engl. などの従来から知られるイグサ属とは明らかに別の分類群であると判断し、私サイト上に紹介頁を掲載してメーリングリストなどで種名や他地域での生育状況などを問い合わせたが、具体的な情報は得られなかった。
イグサ属の植物は園芸品や輸入水苔などに付随していくつかの種類が帰化しているらしいが(植村2002)、類似種が多いことから外国の植物誌記載のいずれに該当するのか判断が難しいこともあり(勝山2002)、日本の各地から報告されているコゴメイ Juncus sp. も、かなり特徴があるにもかかわらず学名不詳のまま扱われている現状である。特にイグサ亜属は葉身を欠くことなどから情報量も少なく同定が難しい分類群であるが、今回の清瀬産植物は特徴がはっきりしていることから、筆者が調べた日本の文献類では該当するような在来種はみつけられず、いまのところ外来種の可能性があると考え、同類のものと比較ができるように種子の成熟を待って植物の詳細図を作成した。なお、和名がはっきりするまでは、産地名から便宜上仮称キヨセイとして以下進める。今後の学名の判定や各地での生育状況確認のための基礎情報として公開提示しておく。
《解説》(東京都清瀬市産による)
◇多年草。草丈180cm。基部から多数の茎が直立斜上して叢生し、直径1m以上の大株となる。
◇根茎は極短く隣接して茎を生じ密株を形成する。
◇茎は分岐せず、円筒状で太く葉鞘上部で径6mmほど。内部は髄が充填せず隙間があり全長に渡って縦断面は梯子状となる。生時の茎表面は光沢のある緑色で乾燥時は無光沢となる。生時は表面が平滑だが不明の縦脈が筋状に多数あり、乾燥時は脈が溝状にはっきりする。
◇茎の基部には葉身が退化した数個の葉鞘がある。葉鞘の上縁の薄膜部(葉耳)は少なく、左右の縁はやや膜質で離生する。葉鞘には多数の縦脈と不整な横脈が点在し、頂部には直立した髭状部があり長さ1～5mm、上部の葉鞘ほど髭は長い。上方の葉鞘は光沢のある緑色で上縁部から次第に藁色に変わり、基部は赤渇色を帯びる。下方の葉鞘は鱗片状で赤渇色～黒渇色で光沢があり、上縁部から次第に藁色に変わる。
◇総苞(最下の苞)は8～12cm。茎と同形同質で茎の延長上に直立し花序は偽側生となる。
◇花序は１～数個の塊からなり、多数の花が密集して径20～30mm。花序の枝は十数本が斜上し枝は少分岐する。短い枝が中心で長い枝は少なく、特に二次枝・三次枝は類似他種と比べて極短く、全体として花序は込み合う。各枝先に１花がつき小穂はつくらない。
◇花は両性で長さ約3mm。萼と花弁に分化せず、外側に３個、内側に３個の花被片がある。花被片は広被針形で鋭頭、背部緑色、辺縁白膜質、内外片はほぼ同形同質で外花被片の長さ2.2～2.5mm、内花被片はやや短い。
◇花の基部や花序の各枝の基部には膜質の小苞が各２個つく。
◇雄しべは３個で外花被片の内側につく。長さ1.2～1.5mm、花被より短い。葯は淡黄色で長さ0.5～0.6mm、花糸より短い。花糸は葯に底着する｡
◇雌しべ１個、花柱１個、柱頭は花柱より長く３分岐してブラシ状。
◇蒴果は３稜のある楕円形、長さ2～2.5mm、花被と同高かやや抽出する。光沢があり、上半部は生時に赤渇色を帯び、乾燥すると褐色となる。先端は花柱基部が残り微凸頭。縦に裂開して多数の種子を出す。
◇種子は細長楕円形～広被針形、黄褐色～褐色。両端に外種皮による白色部分が長く尾状に突出して目立ち、種子の長さは0.5～0.6mm。表面は規則的な細かい波状凹凸紋がある。
図：自然落下の種子比較(左から、ホソイ・キヨセイ・イ・コゴメイ) 頁top
《ノート》 (P3)
◇外見から最も解りやすいキヨセイの特徴は茎の太さで、日本に在来するイグサ亜属ではこのような太い茎をもつ種類を知らない。茎の太さはカヤツリグサ科のフトイ Schoenoplectus validus (Vahl) T. Koyama に外見はよく似るが、花序があればカヤツリグサ科植物には小穂があることから本科植物と紛れることはない。フトイは根茎が這うため株にはならず、仮に花序のない茎１個で比べる場合でも、フトイは茎内部が中実で縦の隔壁があることから、梯子状に隙間があり縦隔壁のない本植物と紛れることはない。
◇茎内部の髄が梯子状に隙間があることは、イグサ亜属ではコゴメイが知られるが本種も同様である。コゴメイかどうか野外で茎を裂いて調べる場面がよくあるが、花序がある時期では花序の形状も外見から種類を判断するよい着目点で、本種はイよりもさらに花が密集した花序をつくり、類似他種の花序とは違いがはっきりしている。
◇キヨセイの種子は、長い方向の両端に白い部分が尾状に突出し特徴的である。この白い部分は外種皮が種子をゆるく包むためだと思われ、他の類似種の種子にも多少みられる性質であるが、本種の場合はそれが著しい。この部分は種子の水散布時の浮遊に役立つと考えられることから、生育環境との関連があるかもしれない。
◇イグサ亜属の種子の表面には凹凸の紋様があるが、キヨセイの場合は短辺方向に走る短線状凹凸紋が、長辺方向に規則的に並び、類似他種と比べてよく目立つ。
◇種子の色や形は熟す程度によって変化があり、イでは途中段階の種子の色や形は大変多様で連続感がみられなかった。最終的な種子の形状は自然落下する時期には確定するので、完熟期のものを参考とするべきである。なお自然落下後も乾燥によって種子の色は少し変化する。なお熟期は種類によって違いがある。
◇葉鞘の頂部の髭状物は葉身の退化変化したものと考えられ、コゴメイやイでも見られるが、本種の場合は茎が太いためか他種より長い。葉鞘上部の葉耳に相当するものは類似種と比べ極短く目立たない。
◇果実と花被の高さの関係は本種ではやや同高の傾向があるが、一定せず変異がある。
◇花の基部と花序の各枝の基部の小苞はほぼ同形同質で、花序枝の上部では二次枝・三次枝が極短いため小苞が連続的に並び、花序が込みあう印象がより強くなっている。
◇本種の総苞(花序の最下の苞)は類似他種と比べて最も短い。
《今後の注目点》
◇仮称キヨセイは、今のところ東京都清瀬市の金山調節池に２株生育する。金山調整池は埼玉県と東京都を流れる一級河川柳瀬川の洪水対策を目的に平成６年に整備されたもので、柳瀬側が増水すると水が調節池に入る越流堰となっており、調節池の周囲には植栽が施されて管理されている。このことからキヨセイは柳瀬川の増水時に種子が流れ込んで来たのか、整備による植栽種に付随してきたのか、あるいは水鳥などによって種子が運ばれて来たのか、いろいろ推測できるが、昔からこの地に自生していたものではないように思える。
◇清瀬産キヨセイは、植物体の大きさから判断して少なくとも10年前後、あるいはそれ以上の年数を経過しているものと推測され、これまで気づかれずにきたことから、他所での生育も見逃されている可能性がある。学名などは専門の方々の研究を待つことになるが、他地域での生育情報など、本植物の全体像が早期に解明されることを期待したい。
◇清瀬市金山調整池のキヨセイ２株は少し離れて生育するが、東側の１株はイと隣接生育しているとみられ、株中から２タイプの茎と花序がみられる。基部で独立しているのか、または同一株なのかが地上部のみの観察では判然としないが、キヨセイのタイプの花序を持つものは株の西面に集中して直立斜上しており、茎は太く内部はキヨセイと同様で種子の形状もキヨセイと同様であった。株の東面にはイのタイプの花序を持つ細い茎が林立し茎内部は中実であった。すなわち基部は隣接しているものの、地上部ははっきり両タイプに分かれていることから、株はそれぞれ独立して隣接しているものと判断した。但しイのタイプの花序を持つものはイそのものより種子が少し小さく、イそのものであるのか疑問は残るが、今後の研究課題としておきたい。(2011/7/16：山口純一)
《参考資料》
勝山輝男 2002.[naturplant:376] コゴメイ. 帰化植物ML(naturplant@ml.affrc.go.jp).
勝山輝男 2003.イグサ科.日本の帰化植物,pp.240-241.平凡社.
佐竹義輔 1982.イグサ科.日本の野生植物草本Ⅰ単子葉類,pp.66-72.平凡社.
関口克己 2001.イグサ科.神奈川県植物誌2001,pp.240-248.神奈川県立生命の星･地球博物館.
内野秀重 2003.イグサ科.千葉県の自然誌 別編4 千葉県植物誌,pp.704-709.
植村修二 2002.[naturplant:241] Re: kogome. 帰化植物ML(naturplant@ml.affrc.go.jp).
山口純一 2009.日本の野生植物検索表.イグサ科.http://homepage2.nifty.com/syokubutu-kensaku/igusaka0.html
山口純一 2010.イグサ科 カヤツリグサ科 イネ科、類似３科の図解区別一覧.http://homepage2.nifty.com/syokubutu-kensaku/zukensaku004.html
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