《植物詳細図シリーズ》 カブダチアッケシソウ Salicornia virginica L.   植物詳細図top   HPtop     zusyousai007

頁概要 (Pdfファイル)
◆頁1 《カブダチアッケシソウ詳細図》
◆頁2 《用語・略語》   《花》   《果実》   《芽》
◆頁3 《枝》   《葉=鱗片葉》   《多肉茎》   《隆起点》   《覚書き
◆頁4 《参考アッケシソウ》    《謝辞》   《参考文献》



特徴的な部位の部分図 (2007東京都採集)  解説   (Pdfファイル→カブダチアッケシソウ詳細図)

詳細図カブダチアッケシソウSalicornia virginica、アッケシソウSalicornia europaea
《形態学用語その他の略語はABC順》

A:Anther (葯)
BA:Branch (枝)
BR:Bract (苞・苞葉)
BU:Bud (芽)
Bud that opens compulsorily (強制的に開いた芽)
Bud that began to grow (伸び始めた芽)
Image of stage of growth of bud (芽の成長期のイメージ)
Inside mass (中の塊)
BUf:The following bud (次の芽)
BUs:Sub-bud (副芽)
C:Calyx (萼)
3 calyxs (3個の萼)
Co:Opening of calyx (萼の開口部)
CS:Cross section (断面図)
Cross section of SH and LS (葉鞘と鱗片葉の断面図)
Fleshy substance in this side was removed (手前の肉質部を取除いた)
Cu:Calyx that held utricle (胞果を抱いた萼)
F:Flower (花)
(3 flowers) (3個の花)
INF:Inflorescence (花序)
A part of bisexual (両性花序の一部)
Closeup of female (雌性花序の拡大図)
Female (雌性の花序)(The stigma was omitted)(柱頭は省略した)
Fruits season (果期)
LS:Scale leaf (鱗片葉)
Scale leaf seen from inside (内側から見た鱗片葉)
Node part of stem (茎の節部分)
Node seen from branch side (枝側からみた節部)
O:Ovary (子房)
P:Pistil (雌しべ)
SE:Seed (種子)
SH:Leaf-sheath (葉鞘)
STA:Stamen (雄しべ)
Young stamen (若い雄しべ)
STE:Stem (茎)
Cross section of stem (茎の断面図)
STI:Stigma (柱頭)
4 stigma (4個の柱頭)
SU:Succulent (多肉茎)
A part of stem (茎の一部)
Dried stem and leaf (乾いた茎と葉)
UP:Upheaval point (隆起点)
UT:Utricle (胞果)
Perspective view of utricle (胞果の透視図)
V:Vascular bundle (維管束)
 この頁top

カブダチアッケシソウ Salicornia virginica L.アッケシソウ Salicornia europaea L. (2009/8/4) (Pdfファイル→カブダチアッケシソウ解説 頁2-4)

 カブダチアッケシソウはアッケシソウに良く似た北米原産の帰化植物で、1980年に東京都で発見され、淺井康宏氏が北米を訪れて確認同定されたアカザ科アッケシソウ属の植物である。その後、特異な植物として関係者の努力により保護されてきたが、わが国では植物体の詳細や花の生態についてはほとんど知られていないことから、生態学的にも必要なことと考え、生育状況を知った機会に花生態学の田中肇氏にお願いし、2007年に何度か現地を訪れ花の調査をしていただいた。
 このたび、田中肇氏が牧野植物同好会誌に執筆されている「花たちの知恵,繁殖のための工夫を見る,アカザ科」において、本種の花についての生態が掲載された(2009年8月1日発行84号)。筆者はこれまでに知り得た本種につての詳細を以下にまとめて、従来の頁を更新した(旧「カブダチアッケシソウの真の茎は?」)。


◇花は枝先に穂状花序を形成する
(図INF)。花序の節に対生する苞(苞葉)に下部をおおわれた3個の花が対となり、各節には6個の花がある。花は下から上に咲きあがる。
◇3個並んだ花は、中央の花が高く左右の花が少し下がって位置し、山形に並んで花時には境目がはっきりしない
(図F)。アッケシソウ属は中央の花が両性で、側生花は雄性であるとする説があるが、本種では花の性と花の位置とは無関係である。

◇花には花弁がなく、雄しべや雌しべは肉質の萼の内部にあり、萼の前面中央には不規則な形の開口部がある
(図Co)。開花時には開口部から柱頭や葯を抽出させる。
◇花には両性花と雌花とがあり、両性花には1個の雌しべと2個の雄しべがある。
◇雌花には1個の雌しべと退化した不完全な雄しべが0〜2個みられる。柱頭は透明白色である。
◇雌しべの子房は短い毛に被われ
(図O)、柱頭は2岐するものが多く、3岐するものもかなりあり、4岐するものが1例みられた(図4 stigma)
◇抽出している雄しべの葯は薄黄色。葯は長さ0.7mmほど。花糸は線形で、長さ0.8〜1mm。

果実
◇胞果は楕円形で有毛、稔っているものは長さ1mm前後が多い。熟期には萼に抱かれたまま脱落する傾向がある
(図Cu)
◇果実の毛はアッケシソウ(少数個体による)よりもやや多く密生する
(図UT)
◇種子は楕円形、無毛でつやがある。


◇茎の節部に枝は対生するが、枝のない節にも必ず1対の丸い芽があり、節ごとに十字対生となる。
◇芽(主芽)の下部には小さな副芽がある
(図BUs)。副芽は主芽が伸びて枝になった場合には枝の基部に残る(図CS:Cross section of SH and LS)

◇芽はややハマグリなどの2枚貝に似た形で、下部は節に癒着し、上部は離生する。芽の上端から中央に向かい縦に切込みがあり、開口部となる。内部には丸い塊があり、成長点を持つ次の芽で、次の節間部をつくり枝となる
(図BUf)


◇芽(主芽)が伸び出して一つの節間部をつくり、成長が止まると上端は節となり、節から次の芽が伸び出して次の一つの節間部をつくる。すなわち筍のように多数の節間が同時に成長するのではなく、一節ごとに一節間が順に伸びだして枝となる
(図BU:Image of stage of growth of bud)。シダ植物のトクサ類と外形的には良く似ている。

◇節から次の芽が伸びだし成長していくと、元の芽の開口部は押し広げられU字形からやがて開ききり、上端は上弦の弧状になる。側方からみると平たい富士山形となり、この節の肉質部が葉である。すなわち対生する葉は節に位置し、上の枝節間部の基部を抱く
(図同上)

=鱗片葉》
◇肉質の葉の上縁は質薄く、頂部から側方へなだらかに2mmほど下がりながら弧を描き、対の葉は左右がつながり下部の葉鞘と連続する。葉の下部に続く肉質部分が葉鞘である。葉と葉鞘は一見スギナの袴状となる(スギナの袴・・・は田中肇氏が使用した表現で、この形状を理解しやすい)。

◇葉と苞は相同であり同形同質である。この頁top

多肉茎
◇肉質の葉鞘を取り去ると、その下に細く硬い真の茎が存在する
(図CS:Fleshy substance in this side was removed)。真の茎は0.4〜0.5mmの木質で、中空ではなく維管束6個を持つ(図V)
◇真の茎は周りを葉鞘が被い径3mm程の多肉茎となる。
◇肉質の葉鞘は、光合成しながら水分の貯蔵、茎の強化に役立つものと考えられる。

◇植物体の基部は木質化して横に長く這い、各節から枝が伸びて分岐を繰り返し、緑色の多肉茎と枝を伸ばす。茎と伸びた枝は同形同質である。茎と枝は冬には帯茶褐色となるが、アッケシソウのような鮮やかな紅色に紅葉することはない。のちに植物体の肉質部分はしぼんで表皮が残り、多肉茎は細くなり、葉は上縁部がラッパ状に広がったまま乾燥して茎をゆるく抱く
(図SU:Dried stem and leaf)

隆起点
◇真の茎には枝の出る位置よりも少し上部に、小さな丸く隆起した膨らみが芽とは別に1(2)個みられる場合が多い
(図UP)。この膨らみは枝の縦位置とは微妙にずれており、また上下の位置も一定せず、規則的なものではない。表面が赤く色づくが、中は肉質で水分が多く、特に成長する様子はない。例えばヤナギ属における枝の皮下隆起状(Striemen)などと同じようなものかも知れないが、仮に隆起点と称して図示しておく(図UP)

《以下は2007年の調査での覚書である》
◇花穂は、雌花のみが集まるタイプの花穂と、多数の両性花と少数の雌花で構成されるタイプの花穂(稀に総て両性花の花穂)との、ほぼ2型がみられた。全体的には、雌花のみの集まる花穂が圧倒的に多く、両性花を持つ花穂は大変少なかった。田中(2009)は、「花期に3回群落を訪れたが、目算で99.9%の花序が雌花のみをつけており、両性花をつけた花序ははなはだ希であった」とする。

◇両性花を含む花穂では両性花が多く、雌花も混在するが少ない傾向がある。総て両性花である花穂も1例みられた(6/30)。
◇両性花を含む花穂の枝では、同じ枝から両性花を多数含む花穂が多く出現する傾向があるが、雌花だけをつけていた枝もつながっていた(6/30)。

◇花の多くが葯を抽出している花穂では、両性花がほとんどであった。葯を抽出していた雄しべの花糸は下部が太い線形で、葯と接続する部分は細くなっていたが、外気に触れて乾燥した状態と考えられ、本来の花糸は線形である(6/30)。
◇2007年6月21日に調査した両性花では、ほとんどの葯は柱頭と同高で柱頭と接触し、同花受粉花を感じさせたが、田中(2009)は、「花はまず柱頭を出し、それが萎れかけた頃雄しべを出して花粉を散布する」と述べて、同花受粉を避けていることを示唆している。
◇1〜2個の葯を抽出していた花穂では、正常な雄しべとおもわれるものは少なく両性花の数は少なかった(6/30)。

◇2007年5月27日に観察した柱頭のみを抽出していた花穂では、雄しべはまだ充分発達していなかったが、2個の雄しべの大きさが異なる場合が多くみられた。
◇柱頭のみを抽出している花穂では、多くは葯が発達せず、雄しべが無かったり短い花糸だけのものや、稀に葯が少し膨らむ場合でも中が空であったり、又雄しべが1個しかない場合もあり、成熟しない雄しべがほとんどであった。しかし結実した胞果がわずかにみられた(6/30)。
◇2009年6月21日に調査した柱頭のみを抽出していた花穂では、雄しべの痕跡も見当たらず、雄しべは完全に退化消失していた。

◇熟期の果穂でみると、萼ごと胞果が脱落している花が多く、萼が残って胞果のみが脱落している花は少なかった。
◇今回調査した果実では未熟果が圧倒的に多く、取出した胞果96個の内、しっかり稔っていた果実は24個で、25%であった。
◇今回調査した果実の結実率は、田中(2009)は、「結実率ははなはだ低く、両性花の咲いていた付近の花序で0.02%、両性花から10m以上離れ雌花のみをつけていた群落では概算で5万分の1程度の結実率であった」とする。この頁top

《参考:アッケシソウ
 アッケシソウの小数個体での検討であるが、カブダチアッケシソウと比べてみた。
(図Salicornia europaea L.)
・植物体の構造や仕組みはほとんどカブダチアッケシソウと大きな違いはなく同じようであった。
・花の各萼は菱円形で、各萼の境目は明瞭である。(カブダチアッケシソウでは各萼は境目が大変不明瞭である)
・調査は花期が終わっており、葯はみられず雄しべは不明であったが、果実は良く熟していた。カブダチアッケシソウと同様に側生花にも胞果がみられ、花の性と花の位置とは無関係であろう。

・胞果は楕円形で有毛、熟期には萼に抱かれたまま脱落する傾向がある。種子は無毛でつやがあり、有毛の薄膜で被われる。ほぼカブダチアッケシソウと類似していた。
・胞果の種皮の毛はアッケシソウの方がカブダチアッケシソウよりやや少ない
(図UT)
・胞果の大きさはバラつきがあったが、小さい果実もしっかりしていて、未熟果は少なかった。
・確認した胞果75個の内、しっかり稔っている果実は61個で81%を占めていた。

・苞果は1mm程のものが多いが大きさはばらつきがあり、最大で1.5mmのものがみられた。中央花の果実のほうが両側花の果実よりやや大きい傾向があり、平均して両側の果実長さ1mmに対して中央の果実長さ1.2mmほどと、若干の相違があった。

謝辞
 2007年の調査に同行させていただいた田中肇氏には、調査観察を通して大変多くのご教示を賜り、本頁に対してもアドバイスを戴いた。帰化植物メーリングリスト、および東京都の齋藤広道氏には、貴重な情報のご提供をいただいた。ここに御礼申し上げます。(2009/8/4;山口純一)


参考文献
淺井康宏 1984.カブダチアッケシソウ.江東区の野草,159pp.江東区総務部広報課.
北川政夫 1982.アカザ科.日本の野生植物 草本U離弁花類,pp.46-50.平凡社.
清水建美 2003.アカザ科.日本の帰化植物,pp.64-68.平凡社.
田中肇 2009.花たちの知恵 繁殖のための工夫を見る アカザ科.牧野植物同好会誌 84:4.牧野植物同好会.

この頁top  syokubutu kensaku