《植物詳細図シリーズ》   ジュズダマ Coix lacryma-jobi L.    植物詳細図top   HPtop   イネ科top   zusyousai005


ジュズダマの 「親亀の背中に・・・型」無限花序
                                            解説      図1            図2
《はじめに》
 長田図鑑1993にはジュズダマの雌小穂の図があるが苞穎は描かれておらず、苞穎を確かめるべく壷状総苞葉を分解してみた。総苞葉内部は図2の(7)図の様で、中央に2個の縦長の特異な形状のもの
(図2:Sr1、Sr2)があり、これは退化した雌小穂である。
 稔性雌小穂は、中心にある子房を5枚の肉質鱗片(図2の(9):G1、G2、L1、L2、P2)が包み、他のイネ科植物とは印象が異なっているため、当初はこの並びの理屈が理解できなかった。加えて薄膜状で形状に変化の大きい雄性花序の苞
(図2:Bm)が存在し、これも他のイネ科植物ではみられないことから、わからずに本稿記載のきっかけとなった。
 不明であった薄膜状鱗片は、時にはかなり小さくなっていて
(図2:One example of the remaining part)、総苞葉を取除いたときに見落としてしまうこともあり、また大変質薄く形も変化があって一定せず、形状認識ができずに構造は不可解であった。

 試行錯誤を繰り返すうち、ジュズダマの花序は1個ずつが、それぞれ1枚の苞に包まれていて、あたかも1段目の花序の上に2段目の花序が乗り、更にその上に3段目の花序が乗っている、無限花序の一型であることが判った
(図1の(1)(2))

 苞は葉鞘と相同で、「苞内の模式図」(図1の(2))で、苞(B)の図での上側の両縁は開いている。図での下側には花序の柄
(Handle of inflorescence)が密着している為に、柄を抱く位置の両側が狭い翼状に張り出している構造である。
 成長前の花序は苞内に完全に包まれているが、成長と共に伸びだして抽出する。 「花序配列図」(図1の(3))での苞B3の中には、B4に相当する花序がすっぽり包まれているが、幼いため外側からはまだみえていない。

 以上のことなどから、不明であった薄膜状鱗片(図2:Bm)(図1:Bm)は、苞や葉鞘と相同器官だと考えてみると、不可解な構造も理解できる。唯一異なるのは、この苞の中に納まる花序は雄性なのである。尚、ジュズダマの名称の元となっている壷状総苞葉
(図:INV)も、図2の葉の着いた総苞葉(図2:INV that arrives leaf)をみても明らかなように、苞や葉鞘と同じ相同器官といえる。

《謝辞》
 筆者が当初に疑問をもった雌性小穂の仕組みについて、森田弘彦氏よりハトムギの記述文献(星川清親1980)をご教示いただき、これにより雌性小穂の構造を確認することができた。厚く御礼申し上げます。(2007/9/27 山口純一)


ジュズダマ Coix lacryma-jobi L. 

図1:花序の配列図  (採:07/08/25 埼玉県富士見市)
  ジュズダマtop   解説        図2
花序の配列ジュズダマCoix lacryma-jobi《形態学用語その他の略語は長田1993に順じた》(ABC順)

(1)Pattern diagrams of inflorescence arrayal (花序配列の模式図)
(2)Pattern diagrams in bract (苞内の模式図)
(3)Inflorescence arrayal (花序配列図)

B1:First bract (第1苞)
B2:Second bract (第2苞)
B3:Third bract (第3苞)
Bm:Male inflorescence bract (雄性花序の苞)
Handle of inflorescence (花序の柄)
INF1:First inflorescence (第1花序)
INF2:Second inflorescence (第2花序)
INF3:Third inflorescence (第3花序)
Male INF (雄性の花序)
Upper inflorescence (上方の花序)

INV:Bottle-shaped involucre (つぼ状の総苞葉)
It exists in the second bract. (2番目の苞の中に存在する)
It exists in the leaf-sheath. (葉鞘の中に存在する)

Leaf (葉)
Leaf-sheath (葉鞘)
Reverse view (逆からみた)

Side view (横からみた)
♂Sp:Male spikelet (雄性小穂)
♀Sf:Fertile female spikelet (稔性のある雌性小穂)
Sr:Reduced spikelet (退化した小穂)







図2壷状総苞葉内の雌花等の図  (採:07/08/25 埼玉県富士見市)  ジュズダマtop   解説     図1       図2   この頁top
雌花などの図ジュズダマCoix lacryma-jobi《形態学用語その他の略語1993は長田に順じた》(ABC順)

(4)Pattern diagrams of arrayal of scale of female  spikelet (雌小穂の鱗片の配列の模式図)
(5)Pattern diagrams in INV (つぼ状総苞葉内の模式図)
(6)Pattern diagrams of evolution of spikelet (小穂の進化の模式図)
(7)Inflorescence taking off the INV (つぼ状総苞葉を取り去った花序図)
(8):Female spikelet all bract combined (すべての頴を結合した雌小穂)
(9)Of female spikelet bract seen from this side (手前から見た雌小穂の頴)

A part highly magnified (一部拡大)
A part of stigma (柱頭の一部)
AP:Apex of G2 (第2苞穎の先端)

Bm:Male inflorescence bract (雄性花序の苞)
Fr:Rudimentary floret (退化して痕跡的になった小花)
G1:First glume (第一苞穎)
G2:Second glume (第二苞穎)

INV:Bottle-shaped involucre (つぼ状の総苞葉)
INV that arrives leaf (葉のついた総苞葉)

L1:Lemma of first floret (第一小花の護穎)
L2:Lemma of second floret (第二小花の護穎)
Male inflorescence handle (雄性花序の柄)
One example of the remaining part (残っている部分の一例)
Open scales (開いた鱗片)
Ovary (子房)

PI:Pistil (雌しべ)
P2:Palea of second floret (第二小花の内穎)
A disappearing palea (消滅した内頴)

Reduced stamen (退化した雄しべ)
Stigma (柱頭)

♀Sf:Fertile female spikelet (稔性のある雌性小穂)
Sr1:Reduced left spikelet (左側の退化した小穂)
Sr2:Reduced right spikelet (右側の退化した小穂)
Vestiges (痕跡)



 ジュズダマtop     図1           図2


 ジュズダマ Coix lacryma-jobi L.

 本種はイネ科ジュズダマ属で、花序および小穂に雌雄2形があり、共に壷状に変化した総苞葉の中にあるが、雄性花序は成長と共に抽出する。壷状総苞葉は硬く数珠状で和名の元ともなり、形状は特異で他種と紛れることはなく、初心者でも同定は容易である。本検索サイトでは「特徴のある花序」から検索できる。本種では小穂略記などは不必要だが、(雄小穂)【構成2小花;2小花+苞穎(小穂と同長)】;(雌小穂)【構成2小花;1小花+1頴+苞穎(小穂と同長)】である。

《各部分の形態》
(本種は誰でも一目で覚えられる種類であり、総苞葉や雄性小穂や小花の構造については各図鑑類などで記述がなされている。また受粉に関しても田中肇氏が研究され解明がなされている。雌性小穂や苞についての詳しい解説を、今まで筆者は承知しておらず、本項では雌性小穂・雌性小花や苞などについての知見を中心に記載する。)

◇本種の花序の構成を1単位に区切って考えると、1個の苞は、1個の花序と上位の苞とを抱く。上位の苞も同様に、1個の花序と1個の上位の苞を抱いている。すなわち、苞に抱かれた花序が一見無限に出現するしくみになっている。

 (上記を図1によって確認すると、1個の苞(図1:B1)は、1個の花序(図1:INF2)と上位の苞(図1:B2)とを抱く。上位の苞
(図1:B2)も同様に、1個の花序(図1:INF3)と1個の上位の苞(図1:B3)を抱いている。)

◇苞は、「苞内の模式図」
(図1の(2))に示すように、苞(B)の片側は縦に空いていて、若い時は左右に重なって閉じている。苞の反対側は花序の柄と接する部分で、花序の柄を抱くように左右に低い翼が縦にはしる。苞はやや半透明の膜質で、数本の縦脈がある。若い苞では上部縁も閉じているが、花序が成長すると苞の上部縁を押し開いて伸びだす。

◇雄性花序の苞(図1:Bm)は壷状総苞葉の中にあり、雄性花序
(図1:Male INF)のみを抱く。雄性花序の苞は、形状に変化が激しく、時にはかなり小さくなっていて総苞葉を取除いたときに見落としてしまうこともあり、形状認識が著しく困難である(図2:One example of the remaining part)。これは、雄性花序が伸長して狭い壷状総苞葉から抽出する際に、変形するものと推測される。

◇花序は壷状総苞葉と下に続く断面半円形の長い柄とからなる。 壷状総苞葉
(図:INV)は熟期には硬く平滑で、艶のある陶器質となり、中には3個の雌性小穂と、1個の雄性花序を抱いた苞とがある(図2の(7))。総苞葉の口部には、時に葉をつける場合もみられる(図2:INV that arrives leaf)

◇「つぼ状総苞葉を取り去った花序図」
(図2の(7))にみるように、3個の雌性小穂(図2:Sr1、Sr2、♀Sr)は、中央の稔性のある雌性小穂(♀Sf)と、退化した雌性小穂(Sr1、Sr2)で、ともに壷状総苞葉の上部開口部から、頂部を覗かせている(図2:A part highly magnified)退化した雌性小穂は棒状に変形し、時にその頂部に退化小花の痕跡がみられる(図2:Fr)

稔性のある雌小穂は「鱗片の配列の模式図」
(図2の(4))に示す構成で、「小穂の進化の模式図」(図2の(6))と考えられる。各頴は、結合した頴の状態(図2の(8))と手前から見た雌小穂の頴(図2の(9))に形状を示したが、多汁多肉質でしっかりと中心の子房・雌しべ(図2:Ovary、PI )を包みこんでいて、他のイネ科植物の形質とは著しく異なっている。子房には退化して微小となった雄しべ(図2:Reduced stamen)が3個みられる。
 雌しべの柱頭
(図2:Stigma)は2岐し、羽毛状で花期には総苞葉の口部から先を長く抽出させて白く光り目立つ。尚、苞の中に花序全体が納まっている幼い状態でも、まだ熟してはいない柱頭が総苞葉の口部から少し抽出している。
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◆稈が中実であり、この点でもイネ科植物の概念と異なり、花序の特殊性とあいまって特異な植物である。 英名Jobs tears(ヨブの涙)は旧約聖書ヨブ記にちなむ。果実は総苞葉内に熟して、総苞葉と共に落下し水に浮いて散布される。

 本種は鱗被による頴の開閉は雄性小花のみで行い、雌性小花は鱗被をもたず、雌雄異花であることによって同花受粉を避ける仕組みとしている。雌性先熟であり、田中肇(1975)によれば、雄性小花は朝から夕刻まで次々と開花し、2個ある雄性小花のうち、中軸がわの小花が先に開花し、他日に残りの1小花が開くという。

 ジュズダマは身近に普通に見られ、特徴がはっきりしていて誰もが覚えやすく、花序も大きいことからユニークな花序の分解を実際にしてみせることで、より興味を与えることができると思う。是非観察会などでご活用いただきたい。
(07/9/27 山口純一)

主な参考文献
藤本義昭 1992.兵庫県帰化植物イネ科図譜,176pp.藤本植物研究所.
星川清親 1980.新編食用作物,697pp.養賢堂.
木村陽子 2003.イネ科.千葉県の自然誌 別編4 千葉県植物誌,pp.711-787.千葉県.
木場英久 2001.イネ科 ジュズダマ属.神奈川県植物誌2001,p.359.神奈川県立生命の星・地球博物館.
小山鐡夫 1964.イネ科.原色日本植物図鑑 草本編V,pp.301-388,pl.76-103.保育社.
大井次三郎 1982.イネ科.日本の野生植物T,pp.85-126.平凡社.
長田武正 1993.増補 日本イネ科植物図譜,776pp.平凡社.
杉本順一 1973.日本草本植物総検索誌U単子葉編,630pp.井上書店.

田中 肇 1975.イネ科 野生種の受粉(2).植物研究雑誌 50:25-32.
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