進化によるイネ科の小穂の変化とタイプ型(06/10/7-09/5/22改訂;山口純一)     トピック目次   HPtop   イネ科top      inekasinka1

《頁概要》
◆退化消失した部分の理解  退化消失している各部分の考え方
◆小花の数を理解する[小穂略記]  『構成多小花型』(図)  『構成3小花型』(図)  『構成2小花型』(図)  『構成1小花型』(図)
◆イネ科の進化を考える模式図(図)  

  風媒花から効率の良い虫媒花に進化してきた植物の中で、再び風媒花に進んだものがイネ科と考えられている。その為に花の構成は大変複雑で、進化を考慮に入れなければ理解しにくく、また属の決定の際には重要な要素となっているので、わかり易く図解してみた。

◆退化消失した部分の理解
 
ここで特に注意しておきたいことは、小穂の進化を考えるときに、どうしても退化消失した部分の理解の問題がある。誰もがイネ科を深く勉強するときに当たる壁である。筆者はこの壁をあまり重要視するべきではない考える。なぜなら余り細かい部分にこだわり、大きな目で見ることを忘れては本末転倒であるからで、この部分が重要なのは属の決定段階であり、種の同定の段階ではこの部分の理解がなくとも、多くの場合は影響を持つことはない。どうか気軽な気持ちでイネ科植物に親しんでいただきたい。しかしながら、なかなか面白い分野ではあるので、興味のある方は是非ご研究ください。 小穂の退化消失している各部分の考え方
 
◆小花の数を理解する[小穂略記]
 尚、当イネ科検索では小穂の小花構成は既存の各図鑑と異なる記述方式を採用し、[小穂略記]に見たままを表記する方法を取った。これにより、今まで難解だった各属の比較検索が、大変すっきりしたのではないかと考えている。


 風媒花から効率の良い虫媒花に進化したが、再び風媒花へと進んだイネ科(花の構造も虫媒花を元にしている)。
 多小花型(基本形)の構成から更に進化が進み、多くは小穂の上部から退化(進化)が始まり下方に及んでいくと考えられ、進化の枝は[1小花]へと向かっているように見える。


◇大型から→小型へ ◇多年草から→1年草へ ◇草質から→硬質または膜質へ ◇苞穎宿存性から→苞穎脱落性へ
◇多脈から→無脈へ ◇多小花から→1小花へ ◇頴より大きい小花から→頴より小さな小花へ
◇無芒から→有芒へ ◇花柱3から→花柱1へ ◇両性小花から→登実性と不稔性が混ざる方式へ

 現在のイネ科は小穂の構成において、基本多小花型、基本3小花型、基本2小花型、基本1小花型、の構成型があり、更にその中にそれぞれ、4タイプの進化方向がみられる。ここでは参考までに表記し区分けしてみた。(+は更に1段階進化を示す)
  Aタイプ; 基本通りに2苞穎は短く、小花の数が少なくなる方向へ進化、
  Bタイプ: 2苞穎が発達して小花を護る方式に進化(小花は退化し小さくなる)、
  Cタイプ: 片方の苞穎が発達し、護穎とともに小花を護る方式に進化、
  Dタイプ: 2苞穎が退化や消失し、護穎や内頴が小花を護る方式に進化、)
        イネ科の進化を考える模式図

◆『構成多小花型(図)
(基本多小花)           [小穂略記]
  A 【構成多小花;2〜多小花+苞穎(小穂より短)】    →[2〜多小花+短苞]           『ウシノケグサ属』など
  A+【構成多小花;1小花+多護穎+苞穎(小穂より短)】 →[1小花+多頴+短苞]           『ササクサ属』

  B 【構成多小花;2〜多小花+苞穎(小穂と同長)】    →[2〜多小花+長苞]            『テンキグサ属』など
  C 【構成多小花;(2)3小花+苞穎(片苞短)】         →[2〜3小花+片苞短]           『ミノボロ属』

◆『構成3小花型(図)
(基本多小花から上部小花は退化し3小花が残る)
  A+【構成3小花;1小花+2護穎+苞穎(小穂より短)】   →[1小花+2頴+短苞]            『ホガエリガヤ属』
  B 【構成3小花;3小花+苞穎(小穂と同長)】         →[3小花+長苞]                『コウボウ属』
  B+【構成3小花;1小花+2鱗片+苞穎(小穂と同長)】   →[1小花+2鱗片+長苞]          『クサヨシ属』
  C+【構成3小花;1小花+2護穎+苞穎(片苞短)】       →[1小花+2頴+片苞短]          『ハルガヤ属』
  D 【構成3小花;1小花+2護穎+(退化苞穎)】         →[1小花+2頴+苞退化]          『イネ属』
  D+【構成3小花;1小花+2花消失+苞穎消失】         →[1小花+頴消失]              『サヤヌカグサ属』

◆『構成2小花型(図)
(基本多小花から上部小花は退化し2小花が残る)
  A 【構成2小花;1小花+護穎+苞穎(小穂より短)】    →[1小花+1頴+短苞]            『チヂミザサ属』など

  B 【構成2小花;2〜3小花+苞穎(小穂と同長)】      →[2〜3小花+長苞]             『カラスムギ属』など
  B+【構成2小花;1小花+護穎+苞穎(小穂と同長)】    →[1小花+1頴+長苞]            『ススキ属』など
  B++【構成2小花;1小花+芒+苞穎(小穂と同長)】     →[1小花+1芒+長苞]            『ヒメアブラススキ属』

  C 【構成2小花;2小花+苞穎(片苞短)】             →[2小花+片苞短]              『トダシバ属』など
  C+【構成2小花;1小花+護穎+苞穎(片苞短)】        →[1小花+1頴+片苞短]          『キビ属』など
  C++【構成2小花;1小花+護穎+苞穎(片苞退化・消失)】→[1小花+1頴+片苞退化〜消失]  『スズメノヒエ属』など

◆『構成1小花型(図)
(基本多小花から上部小花は退化し1小花が残る、真の1小花)
  A 【構成1小花;1小花+苞穎(小穂より短)】         →[1小花+短苞]                『ギョウギシバ属』など
  B 【構成1小花;1小花+苞穎(小穂と同長)】         →[1小花+長苞]                『ヌカボ属』など
  C 【構成1小花;1小花+苞穎(片苞短)】             →[1小花+片苞短]              『シラミシバ属』
  D+【構成1小花;1小花+苞穎消失】                 →[1小花+苞消失]              『マコモ属』など

(小穂の分解は厄介だが、難しい同定の場合は必要になる。[小穂略記]の記述様式を属の検索で取り入れて見た)
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この頁の図は、長田武正 1993.日本イネ科植物図譜 増補.平凡社. 及び、一部図(大井)は、大井次三郎 1982.イネ科.日本の野生植物T 増補.平凡社. での各図より、部分的に一部を取り出し、必要に応じて修正追記し、新たに再配置、再構築したものである。 イネ科の進化を考える模式図
イネ科の進化模式図

構成3小花型 この頁top

イネ科の進化模式図

 構成2小花型 この頁top
イネ科の進化模式図

構成1小花型』   『構成多小花型 この頁top
イネ科の進化模式図 この頁top


小穂の退化消失している各部分の考え方》<06/10/7;山口純一>   (上の図を参照)

◆小穂の退化消失している部分は、実際には見えない訳であるから、推測によらなければならない。
   推測の前提となる知識として、イネ科の小穂の仕組み(以下の2点)を認識しておく。
 ◇小穂の基本形の構造(最下の2苞穎+複数の小花)、   (「用語」の「小花の構造」参照)
 ◇小花の基本構造(護穎+子房+雄蘂+鱗被+内頴)、

  基本は必ずこの組み合わせである事を理解し、その上で考察を進めるが、以下に一例を示すと、

1.イネの小穂とサヤヌカグサ属の小穂とを見ると、概観が良く似ている事などから、同じ進化をたどってきたと推測する事ができる。
2.イネの小穂をルーペで良く見ると、基部に2つの苞穎状の部分 図の(a) がある。更にその下に耳状の2つの痕跡的部分 図の(b) がある。
3.このことから、(b)の痕跡的部分は退化した苞穎の変化したものと仮に推定。
4.次に、図の(a) の苞穎状の部分は、その位置関係から考えて、それぞれ第1小花の退化したもの、第2小花の退化したもの、と仮に推定。
5.仮に推定した上記考えを、小穂の基本に当てはめて見ると上手く説明がつくことから、信頼できる推測といえる。
6.続いて、サヤヌカグサ属の小穂を見ると(上図参照)、イネの小穂に見られるような(a)(b)の部分は見えず、おそらく退化消失したものとの推測がなされ、これが属の特徴となったと考えられる。

この様に、様々な小穂のタイプを考察し、上手く説明のできる事例を積み重ねる事によって、イネ科全体の小穂の進化が推測されてきたのであろう。
但し、「用語」の「小穂の進化」でも述べたように、「退化消失」は余りとらわれなくとも種の同定には差支え少ない。
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