《植物詳細図シリーズ》 コイチゴツナギ Poa compressa L.   植物詳細図top   HPtop     zusyousai008

特徴的な部位の部分図 (2008東京都採集、およびその栽培品)


コイチゴツナギ Poa compressa 詳細図

《形態学用語その他の略語は長田1993に順じた》(ABC順)

A:Anther (葯)
AP:Apex of leaf (葉の先端)
AS:A part of stamen (雄しべの一部)
BR:A part of branch (花序の枝の一部)
F:Floret (小花)
Filament (花糸)
Fr:Rudimentary floret (退化して痕跡的になった小花)
G1:First glume (第一苞穎)
G2:Second glume (第二苞穎)
INF:Inflorescence (花序)
:Base of inflorescence (花序の基部)
L:Lemma (護穎)
LI:Ligule (葉舌)
MA:Margin (へり)
MO:Mouth of leaf-sheath (葉鞘口部)
Ovary (子房)
P:Palea (内穎)
PI:Pistil (雌しべ)
RE:Rachilla extention (小軸突起)
S:Spikelet (小穂)
Stigma (柱頭)
T:Plant(most1y total view) (植物体)
Vestiges of lnvolucre (総苞の痕跡)
Webbed hairs (もつれた毛)




コイチゴツナギ Poa compressa L. (209/8/18)

 本種はイネ科イチゴツナギ属 (Poa) に所属する欧州原産の帰化植物である。本検索サイトでの属タイプ「6G型」、【構成多小花;2〜8小花+苞穎(小穂より短)】、小穂略記は
[2〜8小花+短苞]である。

 長田(1993)には詳細な解説と図があり、植物体は稈や葉鞘がごく扁平で、花序の幅が狭く、根茎が這うなどの特徴がはっきりしているが、本州中部以北(白井2003)に稀であることや、花序の幅や根茎の状態などは変化があるため、正しく認識するには多少の経験を要することなどから、ここでは長田(1993)への追記補助の位置づけとして、図の掲載と必要部分を解説をする。

花序の幅
 本種の花序は幅が狭く、線形から広被針形まで変化がみられる。小穂も密集するものからややまばらに散開するものなど変化があり、変異の両端ではかなりの違いがある
(図INF)
 各文献においては花序の細いものが比較的多く図示されており、木場(2001)277p図や木村(2003)720p図、および白井(2003)PL133図などでは線形の密集花序を掲載している。小山(1964)は線形と細被針形、桑原(2008)390図は線形、大井(1998)PL94図5では広被針形の図を掲載している。長田(1993)179p図は花序の変化を意識してか複数の花序を掲載し、線形が中心だが被針形のものもみられる。

枝の長さ
 花序枝の長さについて、白井(2006)は「1〜3cm(多くは2cm未満)」としている。筆者観察でもほぼ同様であったが、30mm以上(〜38mm)のものも少なからずみられる。また節に対となる枝を比べると極端に長さが異なっている場合が目立ち、長田(1993)の図でもやはりこの傾向がみられる。同属の他種でも花序の枝の長さには長短があるが、本種では特にこの傾向が強いように思える。

這う根茎
 本種の根茎の状態は、各文献では、「基部が著しく匍匐し」「走出枝がある」「長い地下匐枝がある」「根茎は横走してゆるい株をつくる」「地下に長い根茎を伸ばし繁殖する」「長い根茎がはいまわり」、などの記述がなされ、この記述から本種を考えるとどうしても同属のナガハグサ
P. pratensis L.でみる様な長い根茎を考えてしまいやすい。
 根茎が這い節から発根して繁殖する性質を持つことは本種の本来の性質であると思うが、土壌や環境によっても変化があり、根茎を伸ばさずに小株になるもの、根茎が短く這い小株をつくるもの、やや長く這って繁殖するものなど色々なタイプがみられる。

稈の基部
 白井(2003)は、「稈の基部は傾伏し」「基部近くでは節ごとに屈曲する」とし、大井(1982)は「基部は斜上して」とする。筆者観察でも稈の基部から直立することはなく、斜上から弧状に曲がってから立ち上がる。稈の下部では節ごとに屈曲し、屈曲は立体的で剛性も大変強く、押し葉でも盛り上がるような弾力性を示し、平坦に納まるまでしばらく時間がかかる。本種の著しい特徴の一つであり、本図でも節ごとに曲がっているのがわかる
(図T)

 本種は比較的難解なPor属にあって稀であるため認識率は高いといえないが、明らかな特徴をもっているので上記のような変異があることを理解した上で是非注目していただきたい。本頁がPor属を研究する方の多少のお役にたてれば幸いである。
(2009/8/18 山口純一)

《主な参考文献
木村陽子 2003.イネ科.千葉県の自然誌 別編4 千葉県植物誌,pp.711-787.千葉県. (図あり)
木場英久 2001.イネ科 イチゴツナギ属.神奈川県植物誌2001,pp.272-278.神奈川県立生命の星・地球博物館. (図あり)
小山鐡夫 1964.イネ科.原色日本植物図鑑 草本編V,pp.301-388,pl.76-103.保育社.
(図あり)
桑原義晴 2008.桑原義晴 日本イネ科植物図譜,503pp.全国農村教育協会. (図あり)
大井次三郎 1982.イネ科.日本の野生植物T,pp.85-126.平凡社.
大井次三郎 1983.北川政夫改訂 新日本植物誌 顕花篇,1716pp.至文堂.
長田武正 1993.増補 日本イネ科植物図譜,776pp.平凡社.
(図あり)
白井伸和 2003.イネ科 ナガハグサ属.日本の帰化植物,pp.247-250.平凡社. (図あり)
白井伸和 2006.長野県のイネ科植物雑録.日本スゲの会講演用資料,10pp.
杉本順一 1973.日本草本植物総検索誌 単子葉編,630pp.井上書店.

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