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〔枝垂れない箒状の樹形をしたシダレヤナギについてのお願い〕 お蔭様で樹種の特定ができ、トピック「箒状樹形のヤナギ(ペキンヤナギ由来)のルーツ」に導入由来を掲載いたしました。(10/10/18)

得異な形状をしたシダレヤナギ(写真)のルーツを探求しております。どうか皆様のお力をお貸し下さい。

(主幹がはっきりせず、枝は斜上し樹形は箒状、葉と枝はシダレヤナギと同じだが枝垂れない)
箒状ヤナギ
(水元公園 古田満規子氏撮影)

 昨年(2009年)、東京都葛飾区の水元公園で箒状の樹形を持つシダレヤナギ Salix babylonica L. に出会いました。名札は「コゴメヤナギ」となっておりましたが、しかし筆者が認識しているコゴメヤナギ
S. serissaefolia Kimura とは葉や枝の形質が異なり、樹形もコゴメヤナギとは一致しないことから、ご指導いただいているヤナギ科ご専門の先生にも現状を見ていただいたところ、やはりコゴメヤナギとは別のもので、野生状態でもこのような樹形のものは記憶がなく、まだ名前のついていないシダレヤナギの一形ではないか、とのことでした。学名も和名もまだつけられていないヤナギかもしれません。

 水元公園に問合せて調査を依頼しましたが、かなり以前の導入で記録がなく不明とのことでした。その後、びん沼自然公園(埼玉県富士見市)で箒状樹形のヤナギ数十本の生育を見つけ、富士見市から工事担当業者・下請け業者とたどって生産元を追求いたしましたが、やはり経過年数や当時の担当者の退社などのこともあり、生産元にたどりつくことができませんでした。

 シダレヤナギ
S. babylonica L. は自生地は不明または中国原産とされ、独特の樹形で世界各地に植栽されますが、日本への渡来は古く奈良時代にはすでにあったとみられ、万葉集にも登場し昔から親しまれてきたようです。中国の現地では日本で見られるように枝が長くは枝垂れないようで(朝日百科 植物の世界 6:242p写真)、このようなものから突然変異により枝垂れる性質を持ったものが生じ、樹形の面白さから栽培育成され、シダレヤナギと命名されて各地に広まったとも考えられます。水元公園には箒状樹形の雌株が数本あり、枝や葉の形質、雌花の形質など、いずれもシダレヤナギ類と異なる部分が見られず、シダレヤナギの品種に相当するものと考えられます。

 シダレヤナギ(広義)は枝ぶりや葉形に著しい変化があり、枝が特に長く枝垂れるロッカクヤナギ(六角柳)
S. babylonica L. form. rokkaku Kimura や、枝が余り長くならず、葉がやや小さいセイコヤナギ(西湖柳) S. babylonica L. form. seiko Kimura などが品種として知られますが、シダレヤナギはその特異な樹形から江戸期の本草学者達からも注目されていて、六角柳・西湖柳の両種は岩崎灌園著の「本草図譜」(1828)にもとりあげられており、それぞれの和名もこの書での名をあてられたとされています(北村四郎他 1979)。今回の箒状樹形のシダレヤナギは、これらの品種と肩を並べられるものとも評価でき、原木をはっきりさせ、日本在来のものか外国産のものか、あるいは栽培管理の中から出現したものなのか、今のうちにルーツを確認しておく必要があると思われます。

お願い
 箒状樹形のヤナギのルーツをご存知の方。または、「どこにある・どこで見た」等の簡単な、あるいは曖昧な内容でも結構ですので、情報をお持ちの方、どうかお力をお貸し下さい。

 びん沼自然公園では、箒状樹形のヤナギが100本(富士見市台帳)ほど植栽されており、大もとの原木の枝を挿木により育成栽培している圃場がどこかにあり、業者はそこから苗木などを仕入れて各地の公園などに納入植栽しているものと考えられます。箒状ヤナギを育成栽培している圃場がそれほど多いとは思えませんが、これを知ることがまずは第一と考えます。公園などで、余り年数の経過していない植栽情報などがわかれば、圃場にたどりつく確率が高くなりますので、こうした情報をお寄せいただけましたら大変ありがたく思います。また造園業関連の方で何かアドバイスがいただけないでしょうか。合わせてどうぞよろしくお願いいたします。
 なお一つ注意があります。水元公園でコゴメヤナギの名札がついていたように、枝が枝垂れないことからコゴメヤナギと誤認されていて見逃されている場合が考えられます。これに対しては良い対処法がありませんが、多少でも怪しい個体をみかけましたなら、間違っていてもかまいませんので、ご一報いただけるとありがたいと思います。 (2010/7/31 山口純一)

 メールアドレス syokubutukensaku@gmail.com  是非とも、どうぞよろしくお願いいたします。


《文献》
長谷川義人 2001. ヤナギ科.神奈川県植物誌2001,pp.528-545.神奈川県立生命の星・地球博物館.
木村有香 1989. ヤナギ科.日本の野生植物 木本T,pp.31-51.平凡社.
北村四郎ほか 1979. 改定版 原色日本植物図鑑 木本編U,545pp.保育社.
大橋広好 1997.ヤナギ科 シダレヤナギ. 週刊百科編集部(編) 朝日百科 植物の世界 6:242. 朝日新聞社.

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